知磨き倶楽部

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【本の紹介】面白い書評を書くために覚えておきたいこと(北村紗衣『批評の教室』)

僕は、以前はブログでビジネス書を主な対象とした書評を書いていました。今でも時々書きますが、タイトルを「本の紹介」に変えています。それは、以前からそうでしたが、果たして僕の書いているものは書「評」なのかという点がもやもやしていたからです。

 

どこか逃げるようになってしまったわけですが、プロの書評家の書評を読んだりするのは好きですし、やはりどこかであんな書評を書いてみたいという想いは消えません。しかし、どれだけ「文章の書き方」などの本を読んでも、書評の「評」に起因するもやもやは消えません。

 

今回はそんな僕の気持ちにズバッと切り込む一冊を読みましたのでご紹介。書「評」に辿り着くための道は遥か彼方に思えますが、少なくとも面白い・読んでもらえる記事を書くために必要なことを身につけられたら。

 

 

批評とは

本書に拠れば、作品の中から一見したところではよくわからないかもしれない隠れた意味を引き出し(作品に解釈を与える)、その作品の位置づけや質がどういうものなのかを判断する(作品に価値づけをする)ことだと言います。批評を行うことで、作品に触れて何か思考が動き、漠然とした感想以上のものが欲しい、もう少し深く作品を理解したいと思った時に、思考をまとめられるようになります。

著者の北村紗衣さんは演劇のフェミニスト批評を専門とされている方ですが、映画や小説の批評も大学で教えています。そうしたいわゆる「芸術作品」の批評というのは、聞くだけでなかなかハードル高いのですが、なにも対象は芸術作品に限られず、ゲームやスポーツ、短い一文など、何でも批評の対象になると言ってくれています。ビジネス書の書評(批評)も対象としてはもちろんアリなわけです。

 

ただ、作品に価値づけをするというのは、対象が何であれ、非常にハードルが高いものです。北村さんは

批評に触れた人が、読む前よりも対象とする作品や作者についてもっと興味深いと思ってくれればそれは良い批評だ

と言ってくれています。

これで少しばかりハードルを下げて批評(書評)に取り組めそうです。なにせ素人書評ブロガーが沸いて出てた頃、その目的は「読んでみたいと思ってもらうこと(=紹介した本を自分のブログを通じて買ってもらって、アフィリエイト報酬ゲット!)」だったはずですから(w)、目指すべき方向性としては間違ってないはずです。

 

批評のための3ステップ

1、まずは「精読」する

批評をするからには、対象をしっかり読む必要があります。しっかり読むというのは、ものすごく細かいところまで注目するということです。

僕が小説の書評を書けないなと思う一つ目の要因がここです。どうしても「抜いて」しまうところがある。ビジネス書とかだと、えらく細かいところにまで目がいってしまったりするのですが。

ただ、これは訓練次第だとも思うのです。また、そもそも最初から批評をするつもりで読めば、読み方は自ずと変わってくるものでもありますし(最初から「書けない」と諦めて小説を手に取るから、いつまでも精読ができず、批評ではなく感想文になるのです、僕は)。

 

2、「分析」して「価値づけ」する

ひとりで精読することも大事ですが、そこからもう少し読みを発展させるには、作品に関する基本的な情報や、先行するレビューはしっかり押さえたほうが絶対に有利です。

著者の北村さんは、上で引用したように先人の為したことなどに拠ることを「巨人の肩の上に立つ」と表現して、立てる時は必ず立つことを薦めています。また、巨人の肩として非常に重要なものが批評理論でもあります(さまざまな理論は本書に当たってください。僕では消化しきれないですし)。

 

理論というほどではないのですが、これはビジネス書だと非常にやりやすいというか、「差分読書」という読み方をしていくと読みながらある程度できていきます。

差分読書は誰が言い出したのか正確には分かりませんが、僕が10年以上前に「読書法」みたいな本を読みまくっていた頃、有名ブロガーでもあった小飼弾さんや、知の巨人として名高い佐藤優さんなど、読書量が半端じゃない人たちの読み方の一つとして紹介されていたように記憶しています。

要は、ビジネス書なんて似たり寄ったりのことが書いてあるのだから、他との違いを拾いながら読めばよろしい、と。その違いがその本の特色になったり、他とは違う主張になったり、あるいは読み手にとっての価値になったりするわけです。一歩進めれば、なぜその違いが生じているのか、という点に踏み込めば、自然と、作品に関する基本的な情報(著者の経歴・背景だったり、書かれた時代背景だったり)まで含めて考察することになるでしょう。

 

さて、本記事の「批評とは」の項で書いたとおり、著者の北村さんは批評には価値づけがあった方がよいと考えられているわけですが、これは「分析」に含まれます。北村さんは以下のように書かれていますが、僕も激しく同意します。

何か作品に触れた時、面白かったとか尾もしくなかったとかいう感想が生じます。なぜ面白かったのか、どういうところが面白くなかったのかを考え、その根拠を明らかにして他の人と共有するのが私にとっての重要な価値づけのプロセスです。

ただ、単純に一つの作品(ビジネス書)だけを読んで価値づけをするというのは、ほぼ無理です。比較するためのバックボーンを自分の中に形成しないといけないわけで、ここが、僕が自分の書く本記事のような文章を「書評」ではなく「本の紹介」とする理由でもあります。

 

3、いよいよ「書く」

書くほうはちょっとやりたくない、という人はもちろん書かなくてもかまいません。ただし、批評を書くときにどうすればいいかというのは、考えをまとめて順序立てて話す時にも役立つはずです。

折角なら書きたいと僕なんかは思いますが、書かなくてもいいということは、批評の柱は「分析」にあるということですね。分析して価値づけたら、自分だけの肥やしにしても構わない。

まあ、僕は自分の「本の紹介」を「批評」に高めていきたいなと思って本書を読んだわけなので、次に、いかに「書く」かという点をもう少し見ていきます。

 

面白い批評を「書く」ために覚えておくべきこと

切り口をひとつに決める・タイトルを決める

まずは「メインの切り口をひとつにすること」が大切だと北村さんは言います。それと関連しますが、タイトルをつけることが重要で、北村さんはたいてい切り口をまず決めて、それからタイトルを決めて書き始めるそうです。

(この教えに従い、この記事もタイトルをまず決めて書き始めました)

 

また、この記事では既に無視してしまったような気もしますが、とりあえず作品の情報を簡単に書くところからはじめる、というのも書き出しを滑らかにするためのテクニックとして紹介されています。

 

自由にのびのび考えて書いてはいけない

幼稚園などで絵を描かされたとき「はい、じゃあ自由にのびのび書いてみましょう~」とか言われて途方に暮れた経験がないでしょうか? 絵に限らず、作文でもそうですが、少なくとも僕は途方に暮れるタイプ。まずは基本の書き方を教わるなり、与えられたテーマに沿って書く訓練を経たいと思うわけです。

幸運にも文才に恵まれた一握りの人を除き、一般人である僕らはきちんと型を身につける訓練が大事なのです。

 

読んだ人がその作品の様子をだいたい把握できるように書く

内容はだいたい把握してもらいながらも、自分でも読んでみようと思ってもらうことが、僕がブログで書こうと思う「批評(書評)」の目的です。読む気を削がない(読んだ気にならない)ところまで攻める、「ちら見せ」の精神ですかね(笑)

 

具体的な表現を証拠として提示する

批評を読んでもらうため、薦めたい作品に興味を持ってもらうために大事なのは、「感動した」とか「面白かった」みたいな意味のない言葉をできるだけ減らして、対象とする作品がどういうもので、どういう見所があるのかを明確に伝えることです。

そりゃそうですよね。僕のことを知らない貴方がたまたま僕が本を紹介する(あるいは批評する)文章を読んでくれたとして、僕の感覚にだけ依存した感想を読んだところで大して参考にはならないし、心が動くことにはならないと思います。

だからこそ、僕の「価値づけ」の根拠を具体的に提示しなければいけない。そのための「分析」なわけですが、そこに説得力があれば、もしかすると貴方にも「読んでみたい」と思ってもらえるかもしれません。

 

受け手を想定する

これは批評に限らず、文章術などの本でもよく指摘される点です。誰を受け手として想定するかで自ずと書き方は変わってくるものです。

ちなみに、このブログは「僕のことなんてまったく知らないけれど、ブログやらSNSやらで書評を書いて読んでもらいたいと思っている貴方」に対して書いています。

 

ルールすべてを無視する

ルールを覚えた後で「ここはルールにのっとらないほうがいい」ということが判断できるようになれば、それは独創性への第一歩、自分の声を見つけるための挑戦となります。

ここまでの項目に比べると、この項目は応用編の領域です。そして仕事で若者を指導する立場になると、このことが身に沁みて分かったりします。ルールを知らずに無視した作品は、独創性があるというより独善的であることが多いです。他人の文章を読むと分かるんですけどね。自分の文章となると。。。

 

人に好かれたいという気持ちを捨てる

わざわざ人に嫌われたり攻撃されるために文章を書きたいとは思いませんが、取り立てて好かれたいと思うこともありません。ただ、この「好かれたい」という気持ちは胸の奥にこびりついてなかなかそぎ落としにくい感情であることも事実です。まあ、仕事していれば、好かれようが嫌われようが言いたいことは言うという姿勢じゃないといけないので、趣味でこんな文章書いている時も、仕事モードを持ち込めばいいのかもしれません。

 

あと、好かれたいからではないのですが、対象作品を否定したり、面白くなかったことを説明するような文章は書きたくないので書かないというスタンスです。そういう本について、限られた趣味の時間を割いてわざわざ書くなんて時間が勿体無い。そっと僕の中で蓄積して、次の分析の肥やしになってくれれば良い(そういう意味では、面白いかどうかは別として、まったく価値のない本なんてのは存在しませんし、読書メーターというサービスを使って、何かしらは短文で書き残してはいます)。

貴方にも読んで欲しいなと思った本は、時間をかけてでもその気持ちを伝えたいとは思いますけどね。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

本書で書かれているとおり、この記事で本書を「批評」しようとするのであれば、これまでにいろいろ読んだ「書評の書き方」「ブログの書き方」「文章の書き方」系の本と比較しつつ、本書の特色なり、あるいは違うんじゃない?と思う点なりを批判的に分析して書く、という視点が欠かせないのですが、そうはなっていません。まだ「本の紹介」です。

それでも、「面白い書評を書くために覚えておきたいこと」というタイトルを付け、読んでくれた見ず知らずの貴方が「この本読んでみようかな?」と思ってくれればと思いつつ紹介する、という点を意識しながら書いてみた文章です。この記事自体が面白くなっていないのは、本書のせいではなく、僕個人の問題ですので、その点は何卒ご理解賜りたく(汗)

 

最後にこれまで読んだ「文章の書き方」系の本と少しだけ比較しておきますと、いわゆるハウツー本として書かれたビジネス本とは違い、大学でも教えられる「批評理論」など、読者の確かなバックボーンとなり得る知識の解説に支えられており、「そんなこと言っても文才ないし書けないよ」と文章術の本をとっかえひっかえ手にとっていた僕のようなタイプには助けになること請け合いです。自分のことかも?とピンときたら、読んでみて損はしないと思いますよ。