知磨き倶楽部

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【カンボジア】米ドルが依然として80%以上を占めている

カンボジアに投資する際の一つの魅力が「米ドル経済」であると言われます。

現地には法定通貨である「クメールリエル」が存在していますが、歴史的な背景から米ドルの流通割合が圧倒的に高く、給与の支払を始めとして米ドルが利用されているのが現状です。

現地通貨の流通比率を高めるための施策を続けているカンボジアですが、なかなか思惑通りには進んでいない(進められない)ようで。

今日は、そんな状況を伝える現地の報道を見ていきます。

www.khmertimeskh.com

 

 

米ドル経済の功罪

外国人投資家から見ると米ドル経済であることには安心感があります。FDI(外国直接投資)の支えにもなっているでしょう。カンボジアの成長・発展の一助になってきたことは間違いないと思います。

しかし、国内の、特に財政政策や金融政策を司る中央銀行からすると、自分たちで管理できない通貨が主流を占めていては打てる手も限られてしまいます(ユーロが象徴的)。

 

カンボジア中央銀行の動き

通貨発行権利は非常に重要で強力なのですが、それが行使できない状況を何とか改善しようとしているのが近年のカンボジア中央銀行の動きです。

代表的な事例が、銀行貸出残高の10%以上をクメールリエル建ての貸出とすることを銀行に義務付けていることです。また、市中での小売価格表示にリエル建て価格の記載を義務付けるといった動きも、カンボジア中央銀行の施策に連動したものです。数年前から少額米ドル紙幣の吸い上げを行ったようで、市中での買い物お釣りなどで10ドル以下の米ドル紙幣がもらえなくなっていますし、銀行ATMから引き出せる米ドル紙幣を100ドル紙幣に限定する銀行も出てきました。

ただ、急激に米ドル比率を下げることは混乱を招きかねないので、思い切った手を打てないようにも見えます。

 

2021年の米ドル流通状況

カンボジア中央銀行の発行したFinancial Stability Report 2021によると、依然としてドル化比率は高止まりをしています。

銀行の貸出残高を通過別に見ると、88.6%が米ドル建て(残り11.4%がリエル建て)と、各行辛うじて中央銀行に義務付けられている水準をクリアしているという感じです。

裏付けの一つとなる預金残を見ても、預金の91.4%が米ドル建て預金となっており、依然として高水準です。

 

Financial Stability Report 2021

元記事では触れられていませんが、カンボジア中央銀行の発行するレポートには経済状況の概況など、外国人が読んでも有益な情報が掲載されています(他のレポートでも把握できますが、ワンストップで把握できるのは有り難い)。

例えば、FDIの金額については2020年に引き続き2021年も総額としては減少し、35億米ドルとなりました(2020年比で3.9%の減少)。大幅な減少を見たのはホテル等の観光関連分野と農業分野ですが、製造業は2020年比で20%以上増加しているなど、分野によって動きに差が出ています。国別では中国が依然として40%以上を占めて圧倒的な存在感を見せています。日本は5.9%で4位(シンガポールと韓国が日本より多い)。

また、カンボジア中央銀行主導で、これまでなかった「Residential Property Price Index(RPPI)」の集計も始まりました。統計的に住宅価格を見ることが難しかったカンボジア不動産ですが、これは大きな前進だと個人的には捉えています。RPPIによると、2021年の住宅価格指数は前年比で10.9%上昇。新型コロナの影響下にあっても、現地での住宅需要は引き続き旺盛なことを示しているとレポートは言っています。

眺めていると、興味深い数字も出ていますし、カンボジアへの投資を考えているのであれば、一読する価値はあるのではないかと思います。