知磨き倶楽部

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子供に伝えたかった、たった一つのこと ー 子供と読書 ー 同時通訳者のここだけの話

新潮社が毎年開催している「ワタシの一行大賞」という読書エッセイコンクールをご存知でしょうか?

新潮文庫の100冊』『中学生に読んでほしい30冊』『高校生に読んでほしい50冊』に選定されている本の中から、心に深く残った一行を選び、なぜその一行を選んだのかを100~400字で書くというもの。

対象は中高生で、僕はもちろん対象外なのですが、息子が中学生になったことを機に、息子にも毎月同様のエッセイを、ただし対象図書には制限を設けずに、書かせています。

 

今月のエッセイを書かせるべく締切日を息子と相談していた時のこと。

「父ちゃんも一緒に書いてよ」

 

なかなか否定しにくいオファーだし、なにより息子と話す内容も広がるきっかけになるのは好都合なので、「息子が読んだ本」の中から一冊選んで書いてみることにしました。

今月はこの本から。 

選んだ一行

現場がない数週間を有効活用するために、何か一つテーマを決め、そのテーマの「知識的」な基礎体力をつけることです。 (No.2305 / 2560付近)

なぜ?

10年ほど前に流行った「ストレングスファインダー」という自分自身の資質(強み)診断テストがある。その結果、「収集心・自我・最上志向・達成欲・分析思考」が自分の強みなんだそうな。 今振り返ってみても、言い当てられているような気がするが、この資質の仕業だろうか。得意な分野でもないし、いつまでも詳しくならないくせに、やたらと色々な分野の本に手を出す傾向がある。本書もそうだ。別に今さら通訳者になりたいわけでもないし、なれるとも思っていない。でも、通訳者の世界を知ってみたいという気持ちだけで、こういう本を手に取る。 

そこで出会ったのが引用した一行。何気ないし、別に著者が伝えたいことでも何でもない。ただ「ああ、分かるなあ」と全く分野が違う中に共通項を見出した気持ち。そして、初心に帰るような気持ちにさせてくれた一行でもある。

 

いやあ、書いてみると意外と難しいですね。何が難しいかって、400字以内に収めるという点が難しい。

 

僕は書評ブログなど書いていたくらいなので、文章を書くこと自体はあまり苦にならないのだけれど、だらだらなりがちで、短く収めることは苦手です。

最近は「読書メーター」という読書系SNSでメモ程度に書いていますが、あそこも255字という制限が時々恨めしいと思うことがあります。制限があるからこその良さも、もちろんありますけどね。

 

ただ、本記事のタイトル「子供に伝えたかった、たった一つのこと」が、この一行に表されているわけです。 

何にでもまずは取り組んでみることの大切さ。たとえ興味がなかろうと「知識的な基礎体力」をつけることは、どんな分野でもきっと役に立つ。

息子には、そんなことを感じて欲しいなあと思って本書を読ませてみた次第。まあ、通訳者になりたいという興味を持ってもらえたらなという、打算的な気持ちもゼロではないのですけど。

 

 

本書は英語情報誌(というか学習雑誌?)のEnglish Journalで連載されているコラムの書籍化です。プロの通訳者の裏話だったりで、単純に楽しめる話のほか、通訳としての心構えのようなものだったり、もっと幅広く職業人に通ずる仕事に対する心構えだったりが綴られています。

 

僕自身はプロに会議での通訳をお願いしたことはありません。形式ばって事前にばっちり準備がなされて、なんて会議が少ないということもありますが、本当のプロに頼んだことがないから価値がわからないという側面は否定できません。どうしても必要な場合でも、社内の人間で対応してもらってきました。

 

政府関連のカンファレンスなどでは同時通訳で聴く側になる機会は少なくないです。ただ、これってやっぱり国の発展度と通訳の質も関係してるだろうなと思うことが多々あり。はっきり言って、質が低いことが少なくない。通訳を聞いていても、通訳が何を言っているのかさっぱり分からないことも(汗。

 

ただ、通訳をする側の苦労というか、大変さも本書を通じて感じるところはあります。在住国では、まだいろいろなサービスの質が低いことは仕方がない面もあるわけだし、むしろ通訳を入れてもきちんと在住外国人にも伝えようとする姿勢を評価すべきなんでしょう。もう少し、温かい目で、在住国で提供される通訳を聞き入れようと思った次第。願わくは、本書の著者のように、プロ意識をもって知識的な基礎体力の向上に取り組んでいてくれんことを。