知磨き倶楽部

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【本の紹介】2021年12月の読書記録

2021年12月は25冊の本を読みました。当月は発売を心待ちにしているシリーズ物の最新刊が発売されたり、年末ということでKindleでの大型セールが続いたりと、読みたかった本を大量入荷できました。

 

当月に読んだ中から特にお勧めしておきたい本を3冊挙げておきます。なお、シリーズとしてお勧めしている本は除きます。

※ 過去にまとめている以下の記事をご参照いただければ幸いです。

chimigaki.hatenablog.com

 

米中関係緊迫の一要因となっているのが台湾問題です。台湾内部の話ではなく、米中関係の背景整理として、コンパクトによくまとまっています。

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脱獄した少年死刑囚の人と成りを脱獄中に接点を持った人たちの視点から描き出す。裁判の決め手となった唯一の目撃者に接触する彼の目的は。。と、ハラハラドキドキで一揆読み必至の一冊でした。

宇宙物理学を専門とする著者が、SF映画の設定を科学的に”斬る”のではなく、どうしたら実現できるだろうかという視点で解説する。知的で刺激的な一冊でした。

 

(2021/274)副題にある通り米中衝突の大きなリスクとなっている台湾。経済的にも安全保障的にも日本人としても関心を高く持っていなければいけない問題の一つだ。中国と台湾がそれぞれTPPへの加盟申請を行ったことで、日本を含む加盟国は新たな踏み絵を提示されることになりそうでもあるが。台湾問題をとっかかりに米国や日本の対中戦略・姿勢を語った本で、もう少し台湾内部の情報を期待していた僕は少し不満は残るけれど(台湾人にもそれぞれ立場はあるだろうし逆に聞きにくかったりする)、情勢を整理して理解できる好著だと思う。
読了日:12月01日 著者:清水 克彦

 

(2021/275)ボッチの主人公の周りに、可愛いのに恋に破れた「負けヒロイン」がなぜか集まる、学園ラブコメライトノベル。テンプレを大きく裏切らない安心感よりも、個人的な注目度は舞台が豊橋だという点。文芸部の合宿に行くための集合場所が「渥美線の愛大前」だよ?これだけで白米3杯はいける。登場人物が一人くらい三河弁でも良かったんじゃないかと思うんだけど、それは『だもんで豊橋が好きって言っとるじゃん!』で楽しむか。続編出とるし読むしかないじゃんね。
読了日:12月03日 著者:雨森たきび

 

(2021/276)特殊な能力を持った三つ子の兄弟、梵天・梵地・梵人が、得体の知れない巨大な力(?)に目を付けられて、自衛隊員としてPKOイラクに派遣され、謎めいたことをさせられる。日本でティラノサウルスの化石発掘を夢見る天、メソポタミアで発掘に関わることを夢見る地、オリンピックの夢破れて生きる目的を見失っている人。人の言動がユーモラスで物語にコミカルさを与える。これはあっという間に引き込まれてしまった。続いて下巻へ。
読了日:12月06日 著者:万城目学

 

(2021/277)【Kindle Unlimited】年の瀬の締め括りにBook of the year特集は定番。毎度のことながら、読みたいなと思っていた本は多いけれど、実際に読んだ本は少ないな。書店員やプロ書評家など個々人のお薦めの方に目がいく(ランキングとは結構違うし)。年末年始の引き篭もり読書三昧に向けて本を買い漁り中なので、嬉しい悲鳴が止まらなくなる。
読了日:12月08日 著者:ダ・ヴィンチ編集部

 

(2021/278)メソポタミアの歴史(神話)を軸にしたファンタジー冒険活劇は下巻になってますます勢いづく。上巻で明らかになった「ヒトコブラクダ層」に加えて、下巻で明らかになる「ぜっと」は予想の遥か斜めをいく。かといって奇想天外に走るでもなく、しっかりと地に足ついた安心感もあって読む手が止まらなくなる。銀亀さんの存在が上巻で思っていた以上によかったな。最後はしっかり大円団。これ映像化できたら面白そうなんだけどなぁ。
読了日:12月10日 著者:万城目学

 

(2021/279)貴族院の4年生時は大波乱の展開。ローゼマインは図書館の「じじさま」に呼ばれて、無理やり成長させられた後に、一部の欠けたメスティオノーラの書(グルトリスハイト)を手に入れる。が、その間現実世界では貴族院が終わるまで丸々行方不明状態だったり。後半はフェルディナンドの危機に対して暴走寸前のローゼマインと救出作戦の準備。ゲオルギーネはいつ攻めてくる?緊迫ムードの中、来春の次巻を待つ。
読了日:12月12日 著者:香月美夜

 

(2021/280)2000年生まれの若い著者が取り組む地球温暖化対策=二酸化炭素削減活動。賛否両論あれど有名なグレタちゃんと違い、アイデアを実行して事業化にまで持っていっているのが凄い。タイトルの「火星」に関する話は期待したほどのものではなかったけれど、こうした活動をしている著者のことと行っていること、行おうと考えていることが知れただけで十分元が取れる。これは中学2年生の息子にも読ませようと思った。
読了日:12月12日 著者:村木 風海

 

(2021/281)【Kindle Unlimited】ブロックチェーン技術を活用した不動産DXについて知りたくて手に取ったがちんぷんかんだ。。スウェーデンの事例も、特に利点の2点目が理解できない。まあ、本書の執筆が2017年時点であるようにも見えるので、トレンド捉えるにはもう少し他の書籍なども当たってみる必要がありそうですし、そもそも、もっとブロックチェーンに関する基礎的な知識を得ることが必要だと感じました。。
読了日:12月12日 著者:堀江匡平

 

(2021/282)【Kindle Unlimited】まさに「NFTってそもそも何?」状態なので、そこがもう少し理解したかったのだが、本書は大部分がメタバースに関する紹介と、そこから収益を上げるには?という話への導入。それはそれで世の中のトレンドとして興味深い話ではあるんだけどね。
読了日:12月13日 著者:NFT研究家A,XYZ出版

 

(2021/283)カルトな学校(というか社会から半隔離されたような集団生活)を小学生の頃に短期的に体験した主人公が弁護士となってから、当時その学校で暮らしていた、知り合った少女に起こったかもしれない「事件」に関わる。なんか事件のことは別にして『7SEEDS』とか思い起こしてしまったな。読む手は止まらないんだけど、どこかイマイチ入り込めないというか、しっくりこないのは共感できる人物がいないからかもしれない。。
読了日:12月14日 著者:辻村 深月

 

(2021/284)新型コロナによるパンデミックで加速するGAFAなどのビックテックによる社会の変化と拡大する格差。シリアルアントレプレナーであり、ビジネススクールで教授を務める著者による考察。アメリカ社会でアメリカ人向けに書かれているが、独特のユーモアで斬る感じは非常に読み易く、また面白い。そういう意味では中国系テックの台頭などはTik Tokの話は少し出るけどそれくらいで、全体の趨勢は変わらずとも、個別の話には少し漏れもあるか。翻訳なんで一年前の話というところに、自分の限界を感じるなぁ。
読了日:12月16日 著者:スコット・ギャロウェイ

 

(2021/285)武を誇る薩摩島津家臣の久高、守礼乃邦を掲げる琉球王国密偵・真市、朝鮮国の最下層身分である白丁に生まれた明鍾の三人の視点で綴られる歴史小説。時は豊臣秀吉が全国を統一し、朝鮮出兵を画策する頃から、徳川の世となり明国(大明)との交易を開かんとする時期。戦を通じて、儒学の教える「礼」に基づく生き様を、三者の在り方や視点を通して描いている。松本清張賞受賞作とのことだが、期待に違わず骨太で、そうかといって歴史小説過ぎない読み易さを備えた良作。
読了日:12月20日 著者:川越 宗一

 

(2021/286)15巻で突如髪を切っていた雛鶴あいが髪を切ったエピソードが独立短編として電子書籍限定で出版された一冊。出版順じゃなく時系列に沿って14.5巻にして欲しかったし、出版順に拘るなら他にもあるという書きたい短編と合わせて一冊にして欲しかったなぁ。シリーズファンだから買うし読むけど、あいちゃんは僕の好きなキャラランクではやや順位が低いので、正直心の盛り上がりに欠けるのです。
読了日:12月20日 著者:白鳥 士郎

 

(2021/287)カンボジア国立銀行が世界で初めて発行する中銀デジタル通貨の開発に携わった日本のベンチャー企業ソラミツの社長による開発話を主に、その後の会津若松での地域デジタル通貨の話や今後のデジタル通貨界隈の話など。バコンは登録したけど、使える店舗を見たことないし、ABA Payの方が遥かに便利というのが現地駐在員の感覚なんだけど、銀行のない地方の家族との送金とかで使われている?地方にはバコンを使える店があるってことなのかな。どう拡がるのか、あるいは拡げていくのか。デジタル人民元がゲームを変えそう。
読了日:12月21日 著者:宮沢 和正

※本書は当ブログでも記事にしています。

chimigaki.hatenablog.com

 

(2021/288)飛沫感染してしまうとその人の明日の未来が少し垣間見えてしまうという特殊体質を持つ中学校国語教師。受け持ち生徒が描いてくる自作小説が作中小説として合間に挟まれながら話が進むが、ある時作中小説の人物が実際に目の前に現れて。。この作中小説から出てくる二人組がグラスホッパーシリーズの殺し屋達のように冷酷なのにコミカルで、僕の好きな伊坂ワールドを彩る。いつもほど伏線回収の爽快感はなかったけれど、十分に楽しい。満足。
読了日:12月24日 著者:伊坂 幸太郎

 

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(2021/289)一家三人を惨殺して死刑宣告を受けた少年死刑囚が脱獄した。名を変えながらの逃亡生活中に、彼と関わった人たちの視点から描かれる姿。彼本人の視点からの描写が一度もないが、関わった人たちと過ごした日々からは、一家三人を惨殺したという過去が結び付かない。社会面では全く問題なく、むしろいい人を振る舞えるサイコパスの話なのか?と思いつつ読み進むが。。これは期待を越えてとても良かった。
読了日:12月25日 著者:染井 為人

 

(2021/290)証券会社出身の著者による、金融商品への投資を考える際の心得を説く本。お金を失うことへの執着心が強すぎる人は株式投資には向かないと。実物(不動産など)への投資は対象外だが、自分で調べずに人に頼るような人は向かないというのは変わらない。銀行の窓口で勧められるがままに投信買っちゃうような人とかね。特に目新しい話はないけど、コンパクトにまとまっていて、仕事で顧客層への話を組み立てる際には参考にしやすいかな。
読了日:12月26日 著者:大江英樹

 

(2021/291)蒸気錬金なるものが発明されたロンドンで全く売れない作家をしている主人公が、金の無心と引換に、かつて大英帝国が攻めようとして失敗した隣国(?)アヴァロンへ赴き紀行文を書くことに。お供は蒸気錬金の「帽子」に付随する妖精。その紀行文という体裁の本書だが、何に巻き揉まれているのか本人も分かっていないため、様々なトラブルなども最後まで何だったのかが分からずモヤッと感が半端ない。妖精との掛け合いだけがラノベに在りがちながらもコミカルで楽しいが。。
読了日:12月26日 著者:花田 一三六

 

(2021/292)台湾発のハードボイルド物。脚本家・大学教授を辞めて私立探偵(プライベートアイ)を始めた主人公の呉誠。パニック障害とか強迫症とかに苦しんで、やや自分の内に入り過ぎるキライはあれど、近所で連続殺人が発生した頃から俄然面白さが加速する。台湾人っぽい感覚というか、生活というか、そういうものにも溢れている面も興味深い。台湾での刊行から邦訳まで随分時間がかかってしまったようだけど、本国では第二弾も刊行されたとのこと。これは邦訳待ちたいシリーズ。
読了日:12月27日 著者:紀 蔚然

 

(2021/293)毎日新聞社論説委員を務めて定年前に本屋を開くために退職した著者が、本屋としての自らのスタンスや体験などをエッセイ風に綴る。定年後のことを考えた時、一度ならず頭に「本屋」という単語が浮かんだことはある。喫茶店(カフェ)がやりたいという妻の横で、と夢想したこともある。しかし現実の壁は厚い。嗜好品としての本を売る本屋はなくならない、という点に賛意は感じつつも、海外に住んでいることを言い訳にほぼ全ての本をKindleで買ってしまう僕が「本屋」。。淡々とした味わいながら、色々と刺激された一冊。
読了日:12月27日 著者:落合 博

 

(2021/294)フランスの小さな田舎町。12歳の少年アントワーヌは、意図せず隣家の6歳の少年を殺してしまう。死体を隠蔽するも、自分の犯したことの恐ろしさ、罪の意識に苛まれる。村を騒がす捜索は、未曾有の台風に村が襲われたことで中断され。。この少年時代の心理描写が秀逸。こんな大きなことではないにせよ、誰しも自分のしでかしたことを隠してビクビクした経験があるだけに。過去から逃れるために村を離れて逃げようとするアントワーヌだが、犯した間違いは絡みつき続ける。さすが安定のルメートル作品。一気読み必至。
読了日:12月28日 著者:ピエール・ルメートル

 

(2021/295)『デフヴォイス』が良かった丸山氏の2作目(同シリーズではない)。「居所不明児童」を縦軸、「子を持つとは(親になるとは)」を横軸にして紡がれる物語は、読んでいて辛い気持ちになる場面もあるけれど、一旦読み始めると本を置けなくなる。
読了日:12月29日 著者:丸山正樹

 

(2021/296)将棋をテーマにした短編小説あり、棋士による手記あり、将棋の好きな(若しくは将棋を題材にした作品がある)作家によるエッセイありと盛り沢山のムック。僕は作家の黒川さんと柚月さんの対談が面白かったな。「必読!将棋本10選」は殆ど読んだことがあって自分でも意外だったけど、読みたいリストに入れっぱなしの本もあったので優先度を繰り上げておこう。あと既読本を読み返したいなとも思ってしまった。
読了日:12月29日 著者:

 

(2021/297)日本国内最後の戦争となった西南戦争を描いた時代小説。士族の出ながら戊辰戦争で当主の父を喪い、大阪の薬問屋で丁稚となっていた17歳の志方錬一郎は、「へぼ侍」と呼ばれながらも、士族としての矜持を胸に西南戦争へ志願して官軍に参加する。仲間の松岡、沢良木、三木や上官の堀、従軍記者の犬養剛、軍医の寺田などとの出会いが、若き錬一郎を変えていく。まだ戦いの残る幕末のものとは違う時代背景が故の味もある。読み易くもあり、とても面白かった。
読了日:12月31日 著者:坂上

 

(2021/298)宇宙論(宇宙物理学?)を専門にする著者が、SF映画で描かれる現象などの科学的な背景を考察しながら、そうした現象の実現可能性を考える。素人の僕には全く手が出ないこの種の知的な遊び(実現可能性があれば遊びに留まらないか)を垣間見ることが出来るというだけで、刺激的で面白い。取り上げられている映画も、あまり映画を見ない僕でも知っているものが多く(映画は見たことないけど原作は読んだことがあったり)とっつき易い。同じ著者が書いた『宇宙人に出会う前に読む本』も楽しみだ。
読了日:12月31日 著者:高水 裕一


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