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【ASEAN】ADBの経済レポートを読む~新型コロナの影響によりアジア・パシフィック地域で8千万人が最貧困層に

新型コロナの影響で在宅勤務時間が増え、通勤のための移動時間がなくなったために、色々なレポートを集中して読める時間が増えました。

 

今日は、8月24日に発表されたアジア開発銀行(ADB)の最新地域経済レポートを読んでいきます。元記事はカンボジアの媒体であるKhmer Times紙なので、カンボジアの話題が中心ですが、本体のレポートから地域全体の様子もうかがいます。

www.khmertimeskh.com

新型コロナ前の順調な発展

アジア・パシフィック地域は、過去20年間に亘って順調な発展を遂げてきました。1999年に最貧困層と定義される人たちが12億人だったのに対し、2017年には2億人強にまで減少していますし、2001年に栄養不足状態にある人たちが5億人強存在したのに対し、2019年には3億人強へと減少しています。初等教育の修了割合も上がってきていますし、そうした教育の向上が、アジア・パシフィック地域全体の経済成長を支えてきました。

なお、最貧困層は、一日当たりの所得が1.9ドル以下として定義されています。また、一日当たりの所得が3.2ドル以下の層を貧困層と定義しています。

 

新型コロナによる影響

当ブログでも何度か取り上げていますが、2020年はほとんどの国がマイナスの経済成長となりました。アジア・パシフィック地域でも失業率が上昇し、総労働時間も減少しています。そのため、仮に新型コロナがなかった場合と比較したシミュレーションによれば、7500万人から8000万人の人々が、新型コロナによる経済停滞・後退により、最貧困層になってしまったとADBのレポートは分析しています。

また、長期的には、新型コロナに対する様々な対応策の副作用が人的資本や生産性に現れてくるだろうとも予測しています。

 

貧困率は改善したが・・・

全体としては最貧困に分類される人々は減少していますが、経済成長の恩恵を十分に受けられているとは言えない国も存在しています。

ASEANの中で言えば、タイとインドネシアでは、所得下位40%の層の所得伸び率は、経済全体の平均よりも低いと。もちろん、絶対的な貧困レベルから抜け出せることが第一であり、そうした方々の数が多いということは素直に評価されるべきですが、所得上位60%の層との格差は拡大している国もある、ということです。

 

カンボジアメディアの記事をベースにASEAN諸国を比較すると・・・

元記事では、新型コロナによる社会的保護の恩恵を受けられた人の割合について触れられています。

In Cambodia the survey showed only 6.2 percent of people were covered by at least one social protection benefit last year.

他国の状況には触れていませんが、本体のレポートを見ると、カンボジアASEAN諸国の中では、この割合が最低水準です。

カンボジアに次いで低いのがミャンマーで、この両国のみが10%以下の水準。割合の低い順に並べると、カンボジアミャンマーラオス・マレーシア・インドネシア・フィリピン・ベトナム・タイです。タイのみが68%と50%を超えています。

 

また、食料不安の問題についても触れられています。

The ADB defines extreme poverty as an income of less than $1.90 a day. With nearly one in 10 Cambodians below that level, food insecurity is higher than in Thailand, the Philippines, Myanmar, Malaysia, Laos, Indonesia and Vietnam.

ここでは、最貧困層が10人に一人、他国よりも食料不安の蔓延度(prevalence of food insecurity)も高いとしています。ADBのレポートでは、食料不安の蔓延度については、ラオスミャンマーはデータ不足で推計ができなかったと書いてあるんですけどね。

食料不安の蔓延度では、タイが経済発展度合いの割にはASEAN諸国の中で3番目に高くなっています。 カンボジアに次いでフィリピン、タイという順番です。以降、マレーシア・インドネシアベトナムと続きますが、ベトナムの低さは社会主義だからなのでしょうか。。

 

次に触れられているのは読解と数学に関する熟達度です。 

The Coronavirus pandemic has led to job losses, lower salaries and reduced working hours. School closures have also made it harder for children to study. Cambodia ranks above only Laos and Myanmar among 17 countries surveyed for proficiency in reading and mathematics.

記載はありませんが、比較はPrimary Level修了時点です。なお、2019年の調査数字を使っていますので、今回の数字に学校が閉鎖になったことなどは関係がありません。

特筆すべきはベトナムの読解及び数学に関する熟達度の高さです。域内の先進国・地域であるシンガポールや香港には及びませんが、数学に関しては9割を超える生徒が最低限のレベルをクリアしています。

ASEAN諸国では、データ時点がばらばらだったり、読解と数学で極端に熟達度に差がある国があったりするので比較が難しいのですが、データ時点が揃っている国だけで比較すると、ベトナム・マレーシア・カンボジア・フィリピン・ミャンマーラオスの順番です。

 

新型コロナによる影響が出るのは今後です。もちろん、ロックダウン等で学校が閉鎖されれば、たとえオンライン授業等を整備したとしても、もともとの熟達度の低い国ほど、さらに熟達度が下がるであろうことは想像に難くありません。

ちなみに、先生に対する国際的な協力の下での訓練の実施状況は、生徒たちの熟練度にはあまり影響がない(どの国も100%近く実施されている)ように見えます。

 

この点について、ADBのレポートの記述はあまり明るい兆しを与えてくれません。

students from lower middle-income economies usually yield lower proficiency ratings in reading and mathematics, compared to their counterparts from upper middle-income and high-income economies. This inequality in learning outcomes makes it challenging for the poor to use education as a means to escape poverty.

教育が貧困を抜け出すための手段とするのは難しいとしたら、一体どうしろと。。。

 

元記事は最後に、インターネット普及率の高さという明るい話題に触れています。

One positive note is that Cambodians have comparatively high access to the internet, which has assumed growing importance as people work and study from home and shop online. The Kingdom ranked below only Vietnam, Uzbekistan, Mongolia, the Philippines and Bhutan among 20 lower-middle-income countries in terms of internet users per 100 people.

カンボジアは100人当たり40.5人という普及率です。ただ、カンボジアはデータが他国に比べて若干古い点には留意が必要。ASEAN諸国で比べてみると、ブルネイシンガポール・マレーシア・ベトナム・タイ・インドネシア・フィリピン・カンボジアラオスミャンマーの順番です。 

 

まとめ

ADBのレポートはSDGsという観点から色々分析されていて、各国毎に色々な指標が掲載されています。初めて目を通したのですが、これがデータセットとして、特にASEAN諸国を理解するのに大変有用で驚きました。

 

元記事はADBのレポートの第一部に、グラフで記載のある分かりやすい話だけを取り上げています。医療体制の整備度合いとかも書かれているのですが、グラフ中に「カンボジア」と書いていないと、付表にデータがあってもスルーされてる感じですね。

また、第二部や第三部などは完全無視です。生活などから離れた政策の内容とかグローバルバリューチェーンとか、一般紙の内容としては読者の関心をひかなそうな内容になるので、これは仕方ないかな。でも、読んでいくとなかなか興味深いのです。

 

おまけ

アジア開発銀行の総裁を務められた方の著書。面白かったですよ。