知磨き倶楽部

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【ASEAN】IMFがASEAN主要国の2021年経済成長見通し下方修正

2021年7月27日に、IMF(International Manetary Fund)が世界経済の見通しに関するアップデートを公表しました。

僕の関心は主に東南アジア諸国の見通しなので、東南アジア諸国に関係するところを中心に読んでいきたいと思います。

www.imf.org

WEOの7月アップデート

World Economic Outlook(WEO)は、毎年4月公表、10月にアップデートされますが、仕事上では、各国の経済成長率や人口、インフレーション率など基本的な経済指標が、かなり前から予測まで含んだ時系列のデータがダウンロードできることから、資料作りなどで重宝しています。

今回は、7月の中間アップデートです。7月のレポートでは、主要な国や地域の見通し等がアップデートされますが、4月や10月のようにデータベースが更新されることはありません。各国のページまで覗いていくと対象になっている国のデータだけがウェブ上では更新されています。

今回の主なアップデート

世界経済全体の成長見通しは、2021年が6.0%、2022年が4.9%となり、前回の4月公表の見通しと比べると、2021年は据え置き、2022年は0.5%の上方修正となりました。

 

ただし、新型コロナワクチンの接種が進む先進国(Advanced Economies)と相対的にワクチン接種が遅れている新興諸国(Emerging Market and Developing Economies)では、様相が大きく異なることとなりました。

具体的には、先進国全体では2021年が5.6%、2022年が4.9%と、前回の見通しに比べてそれぞれ0.5%、0.8%の上方修正となったのに対し、新興諸国全体では2021年が6.3%、2022年が5.2%と、前回の見通しに比べて2021年は0.4%の下方修正、2022年は0.2%の上方修正となりました。 

東南アジア諸国の2021年見通しは下方修正

新興諸国の中でも、中国・インドを含むEmerging and Developing Asiaの2021年成長見通しは7.5%と、前回レポートから1.1%の下方修正となり、地域別では唯一の下方修正となりました(他の新興諸国地域はサウジアラビア単体での成長見通しを除き、軒並み上方修正)。

足元、デルタ株が猛威を奮い、ワクチン接種も相対的に遅れているインド、ASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの5カ国)は、調査対象中で最大の下方修正の大きさとなっています。中国も、公共投資財政支出の縮小を見込んで小幅ながら下方修正されています。

 

レポート本体では記載されていませんが、IMFのウェブサイトからデータベースを取得すると、ASEAN5のうち、ベトナムを除く4カ国の個別見通しが掲載されています。なぜベトナムだけ更新しないのか謎ですが。。

データベースによると、ASEAN主要4カ国の見通しは以下のとおりです(括弧内の数字は前回公表数字からの修正幅)。

インドネシア:2021年 3.9%(-0.4%)、2022年 5.9%(0.1%)

マレーシア: 2021年 4.7%(-1.8%)、2022年 6.0%(0.0%)

フィリピン: 2021年 5.4%(-1.5%)、2022年 7.0%(0.5%) 

タイ: 2021年 2.1%(-0.5%)、2022年 6.1%(0.5%)

更新されなかったベトナムは、2020年は新型コロナ抑制の優等生として注目され、世界的に経済が減速する中でもプラス成長を達成しましたが、足元は新型コロナの感染が急拡大し、ワクチン接種も周辺諸国と比べてもかなり遅れているため、かなり厳格な行動規制が敷かれています。最大の都市ホーチミン周辺では、工場操業の条件も現実的には難しいほど厳しい要求がなされ、操業停止を已む無くされているようです。

優等生だったベトナムの見通しがどうなるのか、ベトナムから発信される情報にも気をつけておかないといけません。

ダウンサイドシナリオ

最近のこうしたレポートでは、一番最初に挙がるダウンサイトリスクはワクチン接種の広がりです。

 

IMFは、世界の各国が2021年末までに40%、2022年半ばまでに60%のワクチン接種率を達成することが重要だとしています。先進国では問題にならないであろう水準ですが、特に低所得国に分類される国では、現状のままではかなり達成が難しい水準だと見られています。COVAXを通じて先進国などからワクチン供与も増加しているようですが、世界的な大きな喫緊の課題です。

もう一つは、先進国が直面するインフレ圧力の影響が、新興諸国にどの程度波及するか、です。最近だと、米国での早期利上げ観測が出たことで、アジアの株式市場が軒並み低下するということが起こりましたが、海外からの投資資金が引き上げられると、東南アジア各国では深刻な事態が起きかねません。今回の経済減速は、資本市場や不動産市場などの資産面・金融面にはあまり大きな影響をもたらしているようには今のところ見えないのですが、波及するようなことが起こると、局面が変わります。

 

ダウンサイドのみならず、アップサイドに振れるような兆候を見逃さないよう、ポイントは絞りながらも、引き続き日々のニュースなど見ていきたいと思います。