知磨き倶楽部

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【マレーシア】MM2Hの条件変更が国内外で大きな波紋

マレーシアの不動産投資ブームを牽引した要因の一つとして、MM2Hと呼ばれる長期滞在ビザの取得が容易であったことが挙げられます。インターナショナルスクールに子供を通わせる為に移住を考えるような人たちにとっては特に魅力的でした。実際、日本人向けのマレーシア不動産投資セミナーなどでも盛んにアピールしていましたね。

 

2020年7月からMM2Hの取得条件見直しが行われていましたが、今日は、この度発表された新条件が大きな波紋を呼んでいる、という記事を読んでいきます。

www.edgeprop.my

www.scmp.com

英単語メモ

grievance

(特に、不当な扱いに対する)不平(の原因)、不満(の種)

something that you think is unfair and that you complain or protest about

 

MM2Hプログラムの利用者

2002年から導入された長期滞在ビザの制度で、2019年までに約50,000人の外国人がMM2Hを取得しているそうです。国内媒体であるEdgepropによれば57,748人、最大の利用者である香港系媒体のSouth China Morning Postによれば48,471人と、ちょっと無視できない差がありますが、多くの外国人によって利用されている様子が分かります。

国籍別に見ると、中国籍の方の利用が最も多く、全体の約1/3を占めています。次いで多いのが日本国籍の方で10%強。バングラデシュの方が多いのは意外でしたが、東南アジアの中で同じイスラム系国家であることも影響しているのでしょうか。

不動産投資ブームとも相まって、これまでに約120億リンギットもの経済効果をもたらしたとされています。

 

今回発表された新条件

今回、年齢による区分には変更がありませんでしたが、所得要件や資産要件が大幅に引き上げられたほか、ビザの期間が短縮されました。また、90日の滞在要件も追加されました。

所得要件では月額10,000リンギットの国外収入が求められていたところ、月額40,000リンギットへと引き上げられました。

資産要件では固定性預金で1,000,000リンギット(従前は150,000~300,000リンギット) 、流動性資産で1,500,000リンギット(従前は350,000~500,000リンギット)が求められます。

さらに、これまで10年の期間を与えられていたところが、5年に短縮されています。

 

大きな不満の声

そもそもMM2Hは永住権ではないため、マレーシア国籍の方や永住権取得者が得ているような社会的ベネフィットの対象にはなっておらず、あくまでも特別ビザの一種という制度でしたが、今回の要件で求められている内容は永住権に近いようなレベルであるにも関わらず、期間は短縮されるという変更です。

ちなみに、元記事で取り上げられているように、新型コロナウィルスによる入国制限は一般観光客と同等に課され、マレーシア人や永住権所持者とは区別されています。

 

外国人の投資や移住を牽引してきた背景には、移住後のコストまで含めた総合的なコストパフォーマンスが魅力的だったことが挙げられます。特に中国本土系の方は、マレーシアの入国には毎度入国ビザが必要だったこともあり、10年間有効なビザが取得できるということも魅力的でした(日本人のように観光目的であればビザが免除されている国から考えるより遥かに重要なことのようです)。

そうした魅力が全て失われてしまう、というのが大きな不満の声となっています。

 

一方、既存のMM2Hビザを保有している人は別の観点からも不満の声を挙げています。

The participants’ biggest grievance is the Malaysian government seemingly reneging on the renewal clause for existing MM2H visa holders, as many applied on the understanding the financial requirements would remain the same when it was time to renew the visa after 10 years.

ビザも含め、こうした制度変更自体はリスクとしてあらかじめ考えておかなければならないことだと思いますが、以前に取得した有効なビザに対しても遡及させようというのは、確かに行き過ぎじゃないかと思います。

 

マレーシア政府の意図は?

MM2Hによって、多くの外国人が長期的に入国できるようにして投資を促進してきたわけですが、今回の変更時に「マレーシア国民人口の1%を超えないようにする」という総量制限の話もしています。2019年までで多く見積もっても6万人弱ということは、1%(約30万人)に到達するにはまだまだ時間がかかる気もしますが。

なお、数年前に中国寄りとの批判も強かったナジブ政権からマハティール政権に移った際に、中国籍の方を狙い撃ちしてMM2Hの発給を停止した過去もあります。これは、あまりにも巨大な開発が中国系デベロッパーによって行われ、MM2Hをアピールしながら中国本土で販売していたことが背景にあったと見られます。中国系の巨大な開発は、特にシンガポールのお隣所ホールバルでは不動産市場が破壊されるほどのインパクトがありました。

 

今回の変更を強行するとしたら、マレーシア政府のメッセージは明らかに「ほんとの金持ち以外は要らない」に変わったという印象です。シンガポールと同じ路線ですね。

ただ、それが受け入れられる土壌があるかというと、お隣のシンガポールとは事情が違いそうです。元記事でも、こんな要件を満たせるだけの所得と資産があれば、選択肢は他にいくらでもある、というコメントが出ていますが、そこまでお金持ちを惹きつけるだけの魅力がマレーシアにあるのか、と言えば現状では疑問でしょう。だからこそ、関係するエージェントの多くは不満の声を上げているわけですし。

 

そもそも政権が不安定で首相まで後任もいない中で突然辞任してしまう事態になっているマレーシア。新首相は支持基盤が違う党から出そうな気配でもありますが、マハティールが色々ひっくり返したように、本件もひっくり返る余地はあるんじゃないかと思ったりしていますので、続報には注意しておこうと思います。