知磨き倶楽部

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【タイ】不動産開発事業者の景況感、2009年以来最低水準まで落ち込む見通し

2021年7月12日から首都バンコクを中心にロックダウンを発令しているタイ。ワクチン接種の出遅れもあり、ロックダウンを発令してから4週間が経った今でも、一日の新規感染者数は増加を続け、死者数は増加こそ見ないものの減少傾向は見られません。

経済に対して計り知れない影響が出ているものと推察されますが、今日は僕が観測を続けている不動産業界について、先行き見通しを示す景況感調査が2009年以来最低水準にまで落ち込んだ、という記事を読んでいきます。

www.bangkokpost.com

REICとは

調査を行っているのは、Real Estate Information Center(通称REIC)です。REICは1997年のアジア通貨危機の際に、中央で不動産市場の情報を把握・統括する機能が欠けていたことから、市場に対して情報を提供できず、結果として各社が需要を遥かに上回る供給を続けて供給過剰状態に陥ってしまったという反省から、2004年に設立された機関です。

今回取り上げられているHousing Developer Sentimentの調査は、2007年の第四四半期から、各四半期毎に、足元及び先行き6ヶ月間の各社の景況感についての調査となっています。

先行き景況感、50を割り込んでネガティブへ?

今回の記事は2021年第三四半期の先行き景況感がさらに落ち込むという見通しを伝えていますが、まだ正式に発表されたものではないようです。

 

新型コロナウィルスによるパンデミック前の動向を見ていきますと、不動産開発業者の先行き景況感は新型コロナウィルスに関係なく、2018年の第四四半期から下降に転じていました。これは、僕も記憶にありますが、タイの中央銀行が住宅ローン向けの総量規制的なものを導入するというニュースがきっかけでした(固定資産税の導入という話もありましたが、こちらはさほど大きなインパクトはなかった模様)。

ただし、タイでは、当初新型コロナウィルスによるパンデミックの影響は、自国内の感染拡大をかなり抑制できていたことからそこまで深刻に捉えられておらず、2020年第一四半期を底として、2021年第一四半期までは徐々に先行き景況感は改善を見ていました。

The expectations index started declining in the fourth quarter of 2018 after the Bank of Thailand announced late that year it was imposing new lending curbs in the second quarter of 2019.

The index dropped from 60.5 in the fourth quarter of 2018 to 51.5 in the first quarter of 2020, before picking up to 51.8, 52.9, 54.4 and 58.8 in the second, third and fourth quarters of 2020 and the first quarter of 2021.

しかし、前回調査では再び50.5へと大幅な落ち込みを見せました。2021年4月以来、ついにタイも自国内の感染拡大を抑制できない事態に陥ったことが要因です。

足元、感染拡大抑制のための施策は効果を発揮しているようには見えません。また、2021年第一四半期まで先行きの見通しを押し上げてきていたのは、タイ政府が2021年10月には入国規制を緩和(もしくは撤廃)する、という計画を持っていたことが背景にありましたが、8月に入っても状況は改善されておらず、こちらにも黄信号が灯ったということから、落胆の気持ちがさらなる下落に繋がるだろうと見ているものと思われます。

広がる格差

日本の景況感調査と同じように、タイのこの調査でも上場企業と非上場企業で分けられています。

2021年第二四半期の調査結果で見られた動きとしては、上場企業と非上場企業の間で、足元の景況感の方向性に違いが生じたという点です。上場企業では、足元の景況感としては、第一四半期の49.4ポイントから、51.5ポイントに上昇していた一方で、非上場企業では41.7ポイントから39.3ポイントへと下降していました。

また、どちらも先行きに対しては以前よりも見通しを悪くしているという方向性は変わりませんでしたが、非上場企業では第二四半期にはすでに50.0ポイントの分水嶺を割り込んでいました。

 

消費者あるいは投資家の目線からすれば当然ですが、状況が苦しい時ほど大手の体力・資金力というものを重視したくなります。タイでは、他の東南アジア諸国と比べると、建設中に買い手が支払を行う金額は多くないのですが、それでも途中で建設が止まった時に支払ったお金が返ってこないリスクがあるわけですから。

"Buyers' confidence in listed firms is higher than for non-listed developers as a result of their competency, particularly during the pandemic," he said.

もともと、タイでは大手による分譲が全体の6割程度を占めているようですが、開発資金の調達や販売見通しに強気な想定を立てられない非上場企業との差はさらに拡大しそうな予感がします。

まだ報道では見られませんが、タイ現地からは不良債権として売り出されている案件も出てきているようですし、引き続き市場の動向はこまめに見ておきたいところです。