知磨き倶楽部

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【カンボジア】プノンペン不動産市場は格安で厳しい時期

カンボジアの首都プノンペンの不動産市場は、なかなか厳しい状況のようですね。国際的な仲介会社や鑑定会社、不動産市場調査会社の進出が少ないカンボジアにおいて、CBREはかなり頑張っていて、市場の状況を伝える記事の元ネタの多くが彼らのレポートを基にしています。

 

今日は、CBREが発表した2021年上期のプノンペン不動産市場の総括と今後の展望をまとめたレポートを基にした記事を読んでいきます。

www.khmertimeskh.com

CBRE社による説明セミナー

取り上げた記事の元になったレポートに基づいて、CBRE社がウェブセミナーを開催していました。新型コロナによって人を集めたセミナーの開催が難しくなっている中、どこからでもアクセスできる形式になったのはいいことですね。新型コロナが収まっても、この動きは戻って欲しくないです。スピーカーの立場からは、目の前の聴衆の反応が見えないのはしんどいとは思いますが。


www.youtube.com

引きこもりで時間も確保しやすいので、とりあえず全部通して視聴してみました。英語の勉強にもなっていいですね。

2021年上半期の総括 by CBRE

新型コロナの国内感染状況が急速に悪化しているカンボジア。2021年上半期における不動産の主要指標は軒並み落ち込みました。

オフィスの占有率は73%、プライムオフィスの賃料は平米当たり月23ドル、商業施設の占有率は72%、プライム商業施設の賃料は平米当たり月33ドル、高級コンドミニアムの平均販売価格は平米当たり2,802ドル、高級コンドミニアムの賃料は平米当たり月12.35ドルと示されていて、どの指標も対前半期ベースで落ち込んでいます。

それでも、インフラ整備は順調に進んでいたり新しい動きは見えるので、楽観的ではないものの、今後の展望としては暗くない、というのが趣旨のようです。

“We expect the next six months to follow a similar pattern of improving and deteriorating. There is light at the end of the tunnel, but it will still take some time for the storm to be weathered,”

2021年上半期のコンドミニアム市場 by CBRE

第一四半期に少し復調の兆しが見えていましたが、4月~5月にかけての首都圏ロックダウンなどで冷え込んでしまった、という数字に見えます。アフォーダブルに分類されているクラスは落ち込み幅が小さかったようです。

上半期中に完成した物件が5件、1,200戸強というのが多いのか少ないのか判断つきかねますが、下半期には6,000戸を超える新規供給が予定されているようです。大型のThe Gateway、The Peakという目玉物件の竣工も下半期に含まれています。

Most units in the centre of the city are in the high range but, in the second half of the year, we will see a spread to more affordable and mid-range. Also, some high-end condominiums like The Gateway and the Peak, so we can expect dramatic changes in the second half. As big projects hit the market, we will see an impact on the rates that can be charged,”

販売も賃貸も外国人による需要に支えられていた中、足元の新型コロナ感染状況によってプノンペンに来られないのはもちろんのこと、プノンペンから出て行く決断をした外国人も少なくないらしく、その影響が特に賃貸に出ているとのことで、サービスアパートメント市場も同じ傾向を示しています。

僕は、プノンペンコンドミニアム市場は、しばらく厳しい状況が続きそうだと感じました。

※ ちなみに、2ヶ月ほど前に、同じくCBREのレポートを基にした記事で、コンドミニアム市場について書いていますので、ご参考まで。

chimigaki.hatenablog.com

2021年上期のオフィス市場 by CBRE

オフィスの占有率(日本だと、逆の空室率で話をする方が多い気がしますが)はCentrally-Ownedという、一棟をオーナーが所有しているタイプのオフィスで算出されています。募集賃料は2020年に貸主側が相当落とした反動もあって、改善が見られます(市場全体の総括をしていた箇所と整合性がないように見えますが)。

He added that it is anticipated that average centrally-owned office rents will dip as supply enters the market, noting that a slight uptick in rents half year on half year compared with 2020 was seen but that was from a low baseline.

ただ、東南アジアのオフィスを見ていると、Strata Title(Strata Office)という形状を目にします。これは、マンションのようにオフィスビルも区分所有物件として販売しちゃうタイプですね。CBREのレポートを見ると、プノンペンではここ数年で急速に増え始めたようで、2021年に竣工するオフィス床面積の8割弱がこの区分所有タイプだとか。

まだまだ市場としてはCentrally-Ownedの方が圧倒的に多いのですが、Strata Officeの販売状況とか占有状況とかも合わせて見ていかないと、オフィス市場の動向を見誤りそうです。今回、この点については触れられていないのは残念です。。

 

リスク要因としては、更なるロックダウンなどの規制が指摘されています。WFHの動きが定着しオフィスに出社する人数が恒常的に減ってきたり、従業員数そのものを減らす動きが出てくれば、賃貸面積を減らす動きに繋がりかねません。

急に増えた感じのあるStrata Officeは個人投資家の投資対象にもなり得る分野ですが、ここもまだ厳しい状況は続きそうです。

2021年上半期のリテール市場 by CBRE

ここはセミナーで提示されているグラフを見ると、新型コロナ発生前から、結構ドラスティックな地殻変動が起こっているように見えます。

どういう区分なのか分かりませんが、過去に一番賃料の取れていたPrime High Streetが、2019年にPrime Shopping MallとPrime Retail Podiumにその座を譲っています。カンボジアの人たちのショッピング行動に変化が現れたようです。以降、Prime Shopping Mallが賃料水準としてはトップとなり、新型コロナ発生以降の賃料下落率も三者の中では一番小さい。また、この直近2021年第二四半期では、Prime High StreetがPrime Retail Podiumの賃料下落を横目に賃料水準を維持したことで、賃料の逆転現象が起こっています。

インターナショナルブランドの動向は、若干沈静化しているようにも見えますが、2021年も新規参入、店舗拡大の動きが見られます。

ただ、まだ2021年下半期に新規オープンする予定の面積が6万平米強あるほか、日本人期待の巨大なイオンモール3号店(2021年の総供給床面積を上回る規模で開発中)の開業が2023年頃に控えています。投資対象として見ることはない商業施設ですが(時々Strata Titleの商業施設もありますけど)、ここから淘汰が起こりそうな気配がしますね。

質疑応答、パネルディスカッション

質疑の中で触れられていましたが、今回カバーされていない戸建て住宅(Landed Property)は、カンボジアの不動産市場を見ていく上では外せないファクターです。外国人の投資対象としてはコンドミニアムに比べると若干ハードル高いのですが。スピーカーは専門外なのか(外国人だからあり得る)、やや濁した回答にとどまったのは残念でした。

なお、CBREのレポートを定期的に見ていると、この戸建て住宅の分野については、今回取り上げられているコンドミニアム、オフィス、リテールに比べるとカバーされることが少ないです。ここはローカルの調査会社の方が強いのかもしれません。

 

また、政府の支援策として有効だと思われる方法についての話もありました。

“Providing tax incentives would be beneficial in supporting condominium buyers at the lower end of the market. They could consider stamp duty exemptions like the UK where it really pushed the property market to its highest levels. It’s better to push and promote from the base level rather than from the top end of the market,”

他国でも見られますが、不動産の販売を支える施策として税金を軽減(免除)するというのは即効性があるように思います。ここではイギリスの例を挙げていますが、東南アジアの中では、インドネシアが不動産に掛かる付加価値税の免除を行い、新型コロナによる所得減のダメージが大きい中・低所得者層向けの住宅販売に効果を発揮しているようです(そもそも高級物件は対象になってないようです)。

chimigaki.hatenablog.com

まとめ

これまで外国人投資家にとっての主流であった高級コンドミニアム(区分所有住宅)だったりStrata Officeというのは、厳しい状況が当面続きそうだなというのが第一感です。とにかく外国人(在住者)が戻ってこないと始まらないように思います。チャンスがあるとすれば、アフォーダブルに区分される地元向けのコンドミニアムかなと。完成在庫を安く取得できれば面白そう。

あとは、やっぱり戸建て住宅市場の動きが気になります。外国人として投資する方法については調べていますが、仕組みとしては割りと整っています。あとはどれくらいプラクティスがあるのかを継続して調べつつ、動向を見ていきたいところです。