知磨き倶楽部

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【本の紹介】2022年2月の読書記録

2022年2月は27冊の本を読みました。当月は4回飛行機に乗り、新幹線での移動もあったなど移動時間で読書時間を確保しやすかった月でした。

 

その中から、お勧めしたい本を3冊だけ取り上げますと、

まずは乃南アサさんのこちらの小説。朧にしか知識のない日本統治時代の台湾のことを知りながら、台南の町の情景やアジアらしい雑多で活気のある雰囲気を堪能しながら楽しめます。台湾はもともと日本人にとっては人気の旅行先の一つですが、台南に行ってみたくなること間違いなし。

 

こちらは国立科学博物館の田島さんが書かれた、ストランディング(クジラやイルカなどが海岸に流れ着くこと)への対応を中心とした海獣学者の活動の様子や、海獣たちの生態の話など。普段まったく関心を向けていない分野ですが、それだけに未知の世界を案内していただく気分になれます。平易で読みやすいのが大変嬉しい。

 

今さら感のある有名作ですが、面白いものは面白いので外せません。読んでいる間、自然と頭の中が広島弁になってしまうほど、あっという間に世界に没入できます。任侠映画観たあと、映画館から出るときに肩で風切ってしまうような(笑)

 

 

(2022/28)ハルカゼとキリンが高い塔に「送り込まれて」きた背景や、キリヒトが「送り込まれて」きた真の目的などが明らかになり、図書館の魔女としてのマツリカの周りで蠢く政争系の策略から起こる危険も現実化する。一巻の進みに較べて、俄然動きが出てきて面白くなってきた。ラノベ臭もしてきたけど。一巻でやめなくて良かったなと思わせてくれる二巻だった。
読了日:02月02日 著者:高田大介

 

(2022/29)池上彰さんの毎年刊行されているシリーズ物だが初めて読んでみた。一問一答形式に解説をプラスしている格好だけど、全体的にストーリーがなくブツ切れで網羅性も感じられないと思いながら読んだが、読み終えてから初めて「毎日小学生新聞」の連載を基にしたものであることを知った。なるほど。シリーズ物なら『知らないと恥をかく』の方に圧倒的に軍配が上がるね。こっちのシリーズはもう読まないかな。あと、事実の説明に疑義を感じたりした部分もあり。
読了日:02月04日 著者:池上 彰

 

(2022/30)【Kindle Unlimited】毎月読ませていただきながら読みたい本のリストが伸びていく。今回は少し抑え気味に。それでも著者インタビューで押される本はグッと読みたい優先度が上がるのも毎度のこと。今回は恩田睦さんの『愚かな薔薇』と、三砂慶明さんの『千年の読書』が気になって。
読了日:02月05日 著者:ダ・ヴィンチ編集部

 

(2022/31)長引く政治不信の中での新型コロナウィルスによる混乱に対処するため、AI技術で過去の英傑達を復活させて対応しようと。徳川家康以下、織田信長豊臣秀吉坂本龍馬などで内閣を固める。英傑達の口を借りた、著者なりの新型コロナ対応やら、そもそもの具衆政治への批判かなと思いながら読む。現実は、執筆時よりも更に感染拡大の状況は酷くなり、日本政府の対応は諸外国と比べても稚拙に見えるわけだけれど。娯楽としてなかなか楽しめた。
読了日:02月07日 著者:眞邊 明人

 

(2022/32)前巻、キリヒトの「キリヒト」としての役割が明らかになり、ラノベ的に無双を発揮したが、今回は無双ぶりが影を潜めた感じで、マツリカに刺客による呪いがかかる。このシリーズでは、音声なのか文字なのか手話なのかによらず、「言葉」というものが非常に大きな意味を持っているけれど、特にマツリカにとってそれがどんなに大きなことか。外交にも乗り出し、いよいよ物語は大詰めへ。盛り上がっているんだけど、意外と静かな雰囲気でもあるんだよなぁ。
読了日:02月08日 著者:高田大介

 

(2022/33)【Kindle Unlimited】以前から読んでみたかった一冊。世界システム論と歴史人類学の方法を使って、砂糖を軸に近代史を見ていくが、砂糖・奴隷・大英帝国って感じかな。ジュニア新書として整理されているところが価値が高く、なるほど、1996年から25年以上を経た今でも色褪せない。中学2年生の息子にもどうかなと思ったけど、高校生くらいがベストだろうなぁ。
読了日:02月10日 著者:川北 稔

 

(2022/34)1999年の自分(11歳)と2019年の自分(31歳)の中身が一日だけ入れ替わるタイムリープ。20年前に今の恋人の家庭を襲った犯人を突き止めろ。設定はなかなか面白かったのだけど、今一歩というか、ちょっと物語に入っていけず。過去での行動が未来にどう影響するのかというタイムパラドックスの問題には慎重に対応したし、誰もがやってみたい宝くじや株の情報は私利私欲ではなく上手く使った。綺麗だけど、もっとギラギラする方がリアルじゃない?と思ったり。嫌だね、汚い大人は。。
読了日:02月12日 著者:中田永一

 

(2022/35)三国の間で戦いが回避され、二ザマの政変為る。マツリカの左手の動きを奪った双子座を追い詰める場面は冒険活劇のようだが、その中で明らかになる様々な裏の事情。そして、やはりこれは「言葉」の物語だったな。そして、マツリカとキリヒトの別れの刻が訪れて。。壮大な詩が終わり、続編に手を出してしまうこと請け合いだね。寧ろ、刊行時に読んでしまっていたら読みたい時に続編に手を出せずに悶えたに違いない。
読了日:02月15日 著者:高田大介

 

(2022/36)東大首席卒というアイコンとしてのイメージとか、テレビの情報番組での著者のイメージしかなくて読むと少しばかり意表を突かれる。ハーバードに留学して家族法を専攻されていたんだ。僕自身「ふつうの家族」という幻想には疑問があって、女性である著者とは視点は違うのだけれど、色々と考えさせられる点多し。まあ、結婚して、子供がいて、世間的には「ふつうの家族」になってるのかもしれないけど。
読了日:02月16日 著者:山口 真由

 

(2022/37)『時計仕掛けの歪んだ罠』に続くシリーズ第二作目。警察と公安警察を辞めざるを得なくなり、ベリエルとブロームの二人で私立探偵として活動しないかというところで終わった(正確には違うがネタバレ防止)前作から続いているが、ベリエルの様子がかなりおかしい所から本作は始まる。相変わらず北欧ミステリらしい陰鬱な重さを全編に纏いつつ、連続殺人を追うことになる二人とベリエルの元相棒ディア。またしてもジェットコースターのような展開の後に、次作につながる驚きのラストを迎える。次作も楽しみだ。
読了日:02月18日 著者:アルネ・ダール

 

(2022/38)祖母が台湾(台南)生まれであることを知り、昔を懐かしむ祖母に代わって台湾行きを決めた未來。台南で出会った人たち、台南に行って初めて知る日本と台湾の歴史。僕を含めて多くの読者が未來と共に過酷な歴史を知ることになるのだろう。並行して進む祖母の認知症。未來の一家や台南で出会った人たちを通した家族というテーマと未來個人の成長とが絡まり合って、読む手が全く止まらない。凄い小説を読んだ。一度、仕事で台北に行ったことだけのある台湾に、もう一度、今度は台南に足を伸ばせる日程で行ってみたくなった。
読了日:02月19日 著者:乃南 アサ

 

(2022/39)海獣(クジラやイルカなどの海の哺乳類)が海岸に流れ着いた(ストラディング)際に、その原因を探るために全国を飛び回り、解剖や研究・調査を行なっている著者。漂着のニュースは時々見れど、そこで行われることや、そこから得られた海獣たちに関する知見など、普段は窺い知れない世界が分かりやすく綴られており、知的興奮も得られる一冊だった。これは妻も好きそうだが、中学2年生の息子も読めそうだし、読ませてみよう。
読了日:02月19日 著者:田島 木綿子

 

(2022/40)王道の学園青春スポーツ物。題材がeスポーツと呼ばれるようになった「ゲーム」という点が現代的。自身もこの手のゲームが大好きで大会に出たり、世界ランク入りを目指すと言ったりする中学2年生の息子が好きそうだ。読み物としては王道のテンプレを逸脱しないので(主人公に降りかかる困難、というか哀しみがデカいけど)安心感はあるが意外感はないかな。サラッと読めて息抜きにいい。僕も下手だけどゲーム好きだしな。30年若ければ、こんなこと自分でもやりたかったかも。
読了日:02月19日 著者:浜口倫太郎

 

(2022/41)評判に違わぬ警察✖️ヤクザ小説。暴力団係に配属された新米刑事の日岡。直属の上司にあたる大上は、悪徳刑事として並ぶもののない結果と問題を残す。所轄内での暴力団による抗争勃発は文字通り何ともしても避けようと動く大上と、その為には法を省みない大上に反発を覚えながら明らかに薫陶されていく日岡。緊張と迫力を孕んだシーンの連続で息つく暇もなくラストの衝撃へと突っ込まされる。面白かった。シリーズ読む。
読了日:02月20日 著者:柚月裕子

 

(2022/42)歴史上のイベントを取り上げて現役広報担当(部長)がプレスリリースを書きつつ解説する。期待としては取り上げる歴史イベントを、プレスリリースに仕立て上げるために突っ込んで解説してくれる歴史本寄りな内容だったのだけれど、プレスリリース作成において大胆にフィクションを織り交ぜた相当に広報寄りの、広報実務に携わる人向けの内容かな。親しみやすくしようという意図かは分からないが、取り入れる現代的な要素も節々で感性が合わず、ちょっと期待外れ。
読了日:02月20日 著者:鈴木正義

 

(2022/43)マルコポーロの東方見聞録に触発されて、ハポンのサムライの生き様を見んとイスパニアからやって来たジョアン。いくさ姫と呼ばれる、雑賀衆雑賀孫一の一人娘・鶴に拾われて、思い描いたハポンとは全く違う世界へ。雑賀の地から異国との商いを目指して旅立つ鶴は、明国の大海賊・林鳳が企てる日本侵攻の戦に参戦することになり。。ジョアンのどこか抜けたキャラクター、戦国武将たちの産み出す緊迫感、鶴の関西弁も相俟って生まれるスピーディーな展開が面白すぎる。一気読み。
読了日:02月21日 著者:天野純

 

(2022/44)『狐狼の血』に続くシリーズ第二弾。前作のエピローグで明らかにされていた「その後」の時系列では、日岡が田舎の駐在へと左遷されている時期。まだ大上の遺志を受け継ぐかどうかを保留しているものの、任侠の世界に片足踏み込んだ感じ。駐在管区内で指名手配となっている大物国光と「親交」を深めていく。国光の大物感半端なく、今回は前作と比べて、警察よりも任侠寄りに感じられる。しかし面白さは全く衰えず。かっこいいよな。前作もそうだけど、脳内の自分の言葉まで作中の方言に侵されるほどハマる。口から出たらヤバいw
読了日:02月22日 著者:柚月裕子

 

(2022/45)金融庁が発足して20年か。財務省(大蔵省)では傍流と見られながらも、水を得た魚のように検査や監査、また制度設計などに取り組まれた佐々木氏の行政官としての記録に重なる。有名事件ばかりが登場するからか、内容の割に極めて読み易く、また楽しい。実際に知っている人の名前もチラホラ登場して、そんなことが起こってたんだ、と恥ずかしい野次馬根性も見え隠れ。
読了日:02月24日 著者:大鹿靖明

 

(2022/46)甲子園球場のグラウンド整備等を手掛ける、実在の阪神園芸を舞台にしたお仕事小説。運動がからっきしで自分に対する自信も持てない雨宮大地の、阪神園芸入社1年目の日々。家族関係も含めて、大地自身の成長を描く。セクシャリティの問題なんかも出てきて物語に厚みを加える。とはいえ、やっぱりメインは阪神園芸という会社のグラウンド整備にかける想いのようなものが伝わってくることと、普段窺い知れない、言ってみれば裏方なお仕事の内容が興味深くて面白い。
読了日:02月25日 著者:朝倉宏景

 

(2022/47)『あめつちのうた』のスピンオフ短編。本編の前日譚に当たり、本編では阪神園芸の2年目社員だった長谷騎士が主役。甲子園優勝投手となった瞬間に訪れた怪我による挫折から、阪神園芸に入社してグラウンドキーパーに向き合うまで。本編で何度も出てくる象徴的なシーンも登場。
読了日:02月25日 著者:朝倉宏景

 

(2022/48)『狐狼の血』シリーズ三作目。極道を毛嫌いし、極道=外道に対してまさに牙を剥く暴虎・沖を主軸に据えつつ、時間軸を飛び越えて大上・日岡が出てくるところはシリーズの一端だが、なんか前二作とは少し距離を感じる。大上の遺志を受け継ぐと決めた日岡を主軸にした話がくると思っていただけに、正直拍子抜けの感は否めない。単体として読めば面白いけれどね。
読了日:02月25日 著者:柚月裕子

 

(2022/49)2009年に刊行された元本を最小限の修正で2021年に再刊行されたものだということを読み始めてから知る。明らかに付け加えていただいたことが分かる記述もあれど、大半の「最近」という記載は2000年代だと推測される。遺伝学や人類学、考古学の面から人類の進化を説明してくれていて興味深い内容なのだけれど、門外漢であるが故に、同一時点での最新情報で読みたいなぁと思ってしまう。基本的な事実は変わっていないと言ってはくれているけれど。
読了日:02月26日 著者:斎藤成也,海部陽介,米田穣,隅山健太

 

(2022/50)SFジュブナイルかな。AIを搭載した人型ロボット詩音を、極秘に高校に送り込んで5日間AIだとバレずに過ごせるかどうかの実験プロジェクト。送り込まれた先はプロジェクトの責任者天野美津子の娘・悟美と同じクラスだったが、悟美は悟美で詩音が母の極秘プロジェクトのAIロボットだと知ってしまう。やっぱりおかしな挙動を見せる詩音を中心に、高校生の友情とか淡い恋愛とか、幸せって何だろうとか、そんなことをドタバタしながら描く。軽いエンタメとして楽しく一気読み。
読了日:02月26日 著者:乙野四方字,吉浦康裕

 

(2022/51)雇われでも自分の店を出しても上手くいかないフレンチ料理のシェフ潮田と、山で漁師として暮らす大高が、潮田の遭難からジビエ料理で繋がり、食と命といったテーマを縦糸に、ミステリ要素や不器用な友情など多彩な横糸で織られた話。期待以上に面白い。ジビエ料理食べたくなるし、『山賊ダイアリー』読み返したくなるし。
読了日:02月27日 著者:近藤 史恵

 

(2022/52)新型コロナウィルスで大変だった2021年にも各国の宇宙活動計画は活発に進展していた。日本人実業家のおちゃらけたニュースは個人的に好きじゃなかったけど、やはり宇宙活動の話にはワクワクした期待がある。小学生の頃から『宇宙兄弟』を読んできた息子も14歳。まさに本書の想定読者じゃん。漫画の世界がリアルと結び付いて、より興味深くなってくれることを期待。明らかな誤記がある点などは対象読者層を考えると不満ではあるけれど(僕が分からないだけで間違っている記述が他にもあるのでは、という不安を抱かせる)。
読了日:02月27日 著者:インフォビジュアル研究所

 

(2022/53)内藤了氏の新シリーズはオカルトに振り切った警察もの。人には見えない者が見えてしまう異能のせいで苦しんできた安田怜がスカウトされた警察の秘密部隊「異能処理班」。同じく怪異に纏わる異能を持った人(一部人外)たちとの日々は、捜査ではなく「保全や清掃」が任務で。思っていたより大分オカルトに振られているのと、連作中編2本という形もあってやや浅い感じがして、続きを読むかどうか微妙かな。
読了日:02月27日 著者:内藤了

 

(2022/54)著者に費用を負担させて、売れても売れなくても出版社が損しないシステムで攻勢をかける編集部長。200万円で一見商業出版と横並びの著書が出せて、著者も出版社もハッピーという理屈は、あながち嘘じゃないかもと思いながら読む。手八丁口八丁一辺倒に見えた編集部長だけど、彼には彼なりに出版人としての矜持があることが明らかになると余計に。痛烈な揶揄ではあるけれど、頷けてしまう箇所多し。エンタメとしても普通に面白い。
読了日:02月28日 著者:百田尚樹

 

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