知磨き倶楽部

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【本の紹介】2022年1月の読書記録

2022年1月は27冊の本を読みました。当月は年末に買い溜めて積読していた本たちの消化を中心としつつ、Kindle Unlimitedを織り交ぜながらの読書になりました。

 

27冊の中から、特にお勧めの3冊を挙げておきます。

 

浅倉秋成さんの著書は当月に2冊読んでいて、もう一冊の方が話題になっているようですが、僕はこちらの方が好きです。どちらも、おっさんの僕からすればジュブナイル臭さがあるのですが、就職活動というリアルさはあれど個人的には何も感じられないものよりも、いっそラノベ設定のように振り切れてしまった方が楽しめます。

 

こちらの本は、アジアが舞台ということがハードボイルドさを一段上げてくれています。香港って物凄い雑多な感じが残っていて、歌舞伎町を題材にしたようなクライムノベルなどと同じ雰囲気を感じやすい気がします。暴力系じゃなく、電脳系・知能系なところも、僕の嗜好に合ってまして。

 

こちらは中学3年生を対象にした特別講義の書籍化ということで、内容は佐藤優氏が常々言っていることではありますが(キリスト教の話や外務省時代のインテリジェンスの話などもいつも通り)、佐藤優氏なのに難解さが影を潜めて読みやすくなっていて、即座に中学2年生の息子に読ませようと思ったほどです。

 

 

(2022/1)『とっぴんぱらりの風太郎』で風太郎によって救われた秀頼の遺児を守る大阪国…と繋げて読むと広がる妄想・万城目ワールド。会計検査院が長らく検査に入らなかった大阪の社団法人に35年振りに検査に入るというところから物語は大きく動き出す。大阪の「女」の強かさとか、それに気がつかない「男」とか。面白いは面白いんだけど、少しとっ散らかり気味というか、壮大な仕掛けっぽい割には、壮大な話を読んだ気がしない。なんだか不思議な読後感。
読了日:01月01日 著者:万城目 学

 

(2022/2)野依美鈴という個人がユーチューブで始めた「ブレイクニュース」。既存メディアでは取り上げられない問題などに切り込むチャンネルは、美鈴の見た目(綺麗で女性としての武器を活用)も相まって、賛否両論どころか誹謗中傷ありながらも多くの再生数を誇る。連作短編の形で進むが、やがて美鈴がこの活動を始めた真の目的が明らかに。美鈴の背景は少し薬丸岳っぽいけど、いつもの重さはなく全体的にカジュアルな雰囲気。
読了日:01月02日 著者:薬丸岳

 

(2022/3)人類全体が長寿化するにつれ、3つのステージを直線的に移行する人生モデルから、非直線的にマルチステージを移行する人生モデルへと変化している。テクノロジーの進化が先んじて起こり、社会規範や慣行などの大きな変革の過渡期にあるように見える。個々人の選択肢は増えるかもしれないが、負うべき責任も増え、相対的には生き難い世の中になっていくと感じる人が多そうだ。目新しい話では特にない。
読了日:01月02日 著者:アンドリュー スコット,リンダ グラットン

 

(2022/4)あの戦争の折、神経症に悩み、非国民とされた父に対して鬱屈とした想いを抱えていた息子が、父の死後に見つかった父の日記を読んで、父のことを知る。親の心子知らずじゃないけど、なんか今ひとつ入り込めないというか、共感ポイントが見つからないままに読了してしまった。田舎の方言で柔らかく、またどこか戦争の雰囲気から少し遠い趣きを醸し出してはいるのだけど。うーん。
読了日:01月02日 著者:古内 一絵

 

(2022/5)【Kindle Unlimited】1ヶ月のうちに3人もの同級生が学校で自殺したが、実は特殊能力を持つ生徒に殺されたとの話が。。学校全体で4人が、それぞれに異なる異能を授けられることになっているという設定で、一人につき3回まで嘘を見分けられるという異能を受け取った主人公が、別の異能を受け取っていた同級生と解決に乗り出す。スクールカーストという学生時代独特の「文化」を背景にした青春ミステリー。異能以外は結構伏線を散りばめて見事に回収していく本格派で、睡眠時間を大きく削ってしまうほど楽しめた。
読了日:01月03日 著者:浅倉 秋成

 

(2022/6)日本企業にあまり元気を感じられない一方で、アジア(東アジア、東南アジア、南アジア)の企業群の勢いは衰えないように見える。本書は経営学的に厳密にではないけれど、アジアの代表的な企業をビジネスモデルで整理して紹介している。有名すぎて知らない会社はないけれど、こういう視点でズラッと見たことはなかったので、頭の整理(知識の整理)に大変有難い。チャイナテックと呼ばれる巨大IT企業に目を奪われがちだけど、他分野でも強かなアジア企業に真摯に学ぶことは重要だ。
読了日:01月03日 著者:村山 宏

 

(2022/7)定期的に組まれるゼネコン・不動産特集。個人的には第2特集の戸建住宅関連が興味深い。人手とか材料が足りないことが要因で起こる欠陥は、例えば東京都庁を建設していた頃と同じ話。関連企業は好景気に沸いているように見えるけど、バカスカ売れてる時に慌てて買うと思わぬ落とし穴があるかもしれないということか。
読了日:01月04日 著者:ダイヤモンド社

 

(2022/8)久しぶりの冲方丁にして、骨太なアクションサスペンス。ステルス爆撃機で中国から亡命してきた女性軍人、日本を裏から操る会議体オルタ、米国側の影の舞台として動くアクティベイター。国際謀略というより陰謀論ベースな設定だけど、全般にスピーディーでアクションシーンの書込みも迫力があって面白い。シリーズ化しそうな終わり方だけど(真丈の妹の件とか色々)、真丈の強さが無双過ぎてどう発展させるのかな。頭で支配しようという鶴来にあまり魅力を感じられなかったが(同族嫌悪)、この辺の書込みもシリーズ化に期待したい。
読了日:01月05日 著者:冲方丁

 

(2022/9)虚飾に塗れた就職活動を通してみる人間の裏と表。人気SNS企業の最終選考に残った6人がグループ(チーム)ディスカッションで、6人の中から1人を選べというお題に取り組むが、そこで起こる「事件」パートが前半となり、後日談として事件の真相解明に取り組む様子が後半。ミスリードさせたがっていることが伝わってきすぎる感じはするが、エンタメとして十分面白い。20代くらいの若い世代の人の方がより楽しめそう。
読了日:01月06日 著者:浅倉 秋成

 

(2022/10)【Kindle Unlimited】今回は特集に興味が持てず、純粋に見過ごしていた新刊や知らなかった本との出合いを楽しんで、7冊ほどをAmazonのリストに登録。『つまらない住宅地のすべての家』『ミス・サンシャイン』『世界の美しさを思い知れ』『辞書になった男』『博士と狂人』『荘園』『赤い十字』。毎度、嬉しい悲鳴。
読了日:01月07日 著者:ダ・ヴィンチ編集部

 

(2022/11)2015年頃の香港を舞台にしたハードボイルドとミステリが複合されたような小説。電車の中で痴漢被害に遭った15歳の妹を中傷するネット掲示板。自殺してしまった妹。中傷した人間を特定すべく探偵に依頼する姉だったが、紹介された探偵が凄腕ハッカーで。。と、この辺りまではそれ程新味を感じない設定だったのだけど、知らぬ間にミスリードさせられ、更に事件の別側面が展開する。作者はシリーズ化を考えているようで、楽しみに待ちたい。
読了日:01月08日 著者:陳 浩基

 

(2022/12)何故か異世界に取り込まれた鈴上誠一。当初こそ元の世界へ戻ろうとするが、やがて自ら異世界に残ることを決めていく。一方、誠一のいる異世界は現実にはトンデモナイ影響を引き起こす。外宇宙から飛来したウィルスなのか微生物なのかが人類に大きな脅威となり、地上の脅威を取り除くために命をかける人たち。うまいんだけど、もう一歩設定を踏み込んで欲しかったなぁ。
読了日:01月09日 著者:恒川 光太郎

 

(2022/13)孤立した単なる知識を持っているだけでは、知らない・分からないことが分からず「知ってるつもり」に陥りやすく、周辺や共通性を持つものなどの知識を取り入れてシステム化していくことによって初めて分からないことをキチンとわからなく出来る。まあ、言い方がアレだけど主張には全く同意。思っていることを言語化してくれたという感じ。例として取り上げられている「知識のシステム化」を行なっていく対象に、まるで興味が持てないのが読んでてやや辛いところではあるが。
読了日:01月10日 著者:西林 克彦

 

(2022/14)投資先を考える際に、ホームバイアスが消え、儲からない日本への投資比率を減らして国外への投資比重が増えていると。まあ合理的だよね。データは日本という国の力が相対的に落ちていることを示しているわけだし。好き嫌いとは別次元。そうなった時に、日本に住んでる必要ないわな、と移住までしちゃう人は富裕層の中でも、まだ少数派だと思うけど。
読了日:01月11日 著者:ダイヤモンド社

 

(2022/15)検察官として政治の闇に切り込もうとして返討ち(と裏切り)に遭い、ヤメ検にして弁護士になる道も無くなった宗光は、それでも法律の世界で生きるため非弁護人として裏の世界との繋がるしかない。落ちぶれたヤクザや在日外国人などの社会的に弱い立場の人間を食い物にする非道な存在・犯罪の匂いに、生来の正義を追う性分と、裏で生きるからこその覚悟で真相解明に取り組む。謎解きやアクションではなく、法廷内外での駆け引きで読ませるリーガルサスペンス。
読了日:01月13日 著者:月村了衛

 

(2022/16)【Kindle Unlimited】本邦初翻訳となる著者だが、実はシリーズ物の第二作目らしい。とはいえ、前作の存在が全く気にならずに単独で読める内容。結婚式のために集まった家で悲劇が起きる。なのに、ちょうど一年後に全く同じメンバーを集めて、一年前の悲劇の真相を探るための「殺人ゲーム」を行うと。そこには更に過去の誘拐・レイプ事件も絡んできて。気になる伏線をチラつかされながら、それでも最後の真相解明と伏線の関係に唸る。ただ、ちょっと陰鬱で回りくどい印象も。
読了日:01月15日 著者:レイチェル・アボット,関 麻衣子

 

(2022/17)幅広い顧客基盤を持つ非金融企業によるタイムリーな金融サービスの提供ということで、やはりプラットフォーマーと呼ばれる事業者の優位性は揺るぎない。現在は国境を越えた拡がりには法規制上などの壁がある分野が多そうだが、そうなると各国で立ち上がってくるチャンスがありそう。自社で抱えるまでの組織力はないけれど、少なくともこういう流れや話が、技術的な面も含めて分かる人材は抱えるなり育てるなりしないといけないなと、最近思わされる機会が多い。
読了日:01月16日 著者:城田 真琴

 

(2022/18)非財務資本関係の話題。伝統的な製造業中心の時代から多種多様な企業が活躍する時代になり、財務諸表だけでは企業の実力が測れなくなり、とっくに財務諸表以外の部分が重視されるようになっている。そして、アピール力を含めて、ここの弱さが日本企業の低評価に繋がっている。監査の限界も大きな問題。監査は大事なんだけど、ずっと何かが違っていると思っている。僕の働く国ではまだまだ議論はここまで辿り着かないレベルだけど、動きはキャッチアップしておきたい。
読了日:01月17日 著者:週刊東洋経済編集部

 

(2022/19)前半は松の性格が反映されてか、淡白に感じられる展開。後半に入って福松(鄭成功)が物語を引っ張り始めてから怒涛の展開となって一気に読まされる。明が清に滅ぼされ、鄭家の存亡をかけた方向性の決断を下さなければならないという大変な時期とはいえ、鄭成功のやり方は何というか人望の得られない、滅びに向かう雰囲気を放ち続けていて。
読了日:01月19日 著者:川越 宗一

 

(2022/20)【Kindle Unlimited】経営不振の老舗ホテルに投資ファンドが社長として送り込んだのは、社会心理学を研究する大学の先生で経営の素人。社長が最初に発案したのは、全従業員が参加する総選挙(落選した2割は解雇というリストラ付)。部署をシャッフルされた五人の視点を通して「仕事」ってなんだっけ?ということを思い出させてくれる。重たくないお仕事小説だけど、肝はしっかり押さえられていて、エンタメ感もタップリ。楽しめた。
読了日:01月20日 著者:桂 望実

 

(2022/21)【Kindle Unlimited】フェイスブックが社名をメタへと変えるなど、メタバースなる言葉が飛び交うようになったけれど、実のところ僕には「?」な感じだった。本書はメタバースを「現実とは少し異なる理で作られ、自分にとって都合がいい世界」と定義するが、これがなかなか理解しやすい整理かも。息子がやっていることを横目で眺めてきただけだったけど、シノゴの言わずにフォートナイトとか色々やってみるべしなのかもね。一昔前にSNSを理解できなかったおじさん達のように僕自身がなってしまわないためにも。
読了日:01月23日 著者:岡嶋 裕史

 

(2022/22)【Kindle Unlimited】こういうムックは出ると読んでしまうが、毎度そんなに大きな話はない。OSが新しくなって出来るようになったことは増えたし、へえ、とは思うことはあれど、実際にはほぼ使わなかったりするし。どうせサブスクしてるからいいけど、使い熟すには外部のサービスにもそれなりに加入して、年間数万円レベルでの投資は必要だよね。最近、この辺を少し整理しているところ。。。
読了日:01月23日 著者:

 

(2022/23)妻の蔵書から。中学2年生の女子生徒がクラスメイトを殺害。容疑は認めているのに動機を言わない。一人親家庭における子どもの貧困問題を主軸に据えたため、家庭の描写などにはちと偏りもあるか。主人公ネガの母親はなぁ。。中学生っぽい友情などは暗いながらも青春小説要素濃い目のミステリ。一方で警察側の書込みはもう一歩踏み込んで欲しかったかな。
読了日:01月24日 著者:天祢 涼

 

(2022/24)最近、自分の中で俄に「分かっていないとまずいのではないか」という焦りというか危機感というかを感じるようになったものにNFTとメタバースがある。メタバースの方はまだ理解しやすいのだけれど、NFTがどうもピンとこずモヤモヤ感が残る。実際に自分でやってみないとダメかもしれないな。週刊東洋経済らしく、この分野での最近の日系企業の動向などが取り上げられていて参考になった。
読了日:01月25日 著者:週刊東洋経済編集部

 

(2022/25)以前から読みたいと思っていたシリーズ。中世っぽい設定で始まるファンタジー。田舎っぽい所で育った少年キリヒトは、何故か「高い塔」と呼ばれる図書館に送られる前提で育てられていて、図書館を統べる「魔女」の補佐をする。。と、一巻の大部分が、物語が何処に向かうのか分からない設定説明のような描写が続いて結構しんどい。最後の方で少し面白くなってきたかなという感じはあるが、うーん。二巻を手に取るか悩ましい。妻は好きそうかも。
読了日:01月28日 著者:高田大介

 

(2022/26)佐藤優氏が中学3年生に向けて行った特別講義。読解力の重要性と、そのために小説の有用性を説く。ビジネス書一辺倒になっていた30代前半の時に氏の本を読んで、小説などへも回帰したことを思い出す。これまで氏の書籍は何冊か読んできたので、主張の根底は目新しくないが、中学生を対象にしただけあって普段より難解さがない。これは中学2年生の我が息子にも読ませてやりたい本だ。ついでに三浦綾子さんの『塩狩峠』もKindleに入れておいた。
読了日:01月30日 著者:佐藤優

 

(2022/27)母親が殺されてしまったために、物心つく前から施設で育ち卒園を迎えた坂木錠也は恐怖を感じたことがない。同じ施設で暮らした年上の女の子には「サイコパス」と言われたが、自分でもそうだと思っている。そん雑誌記者からの、ちょっと危ない仕事も請け負いながら生計を立てていた。そんな錠也が母親を殺した男の所在を知ったところから物語が動き出すサイコスリラー。その叙述トリックはないだろう、とは思うものの、息をつかせずラストまで一気に引っ張られた。
読了日:01月30日 著者:道尾 秀介


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