知磨き倶楽部

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タイ: 新型コロナワクチン接種に対するためらいが増加

新型コロナの経済への影響などには関心もあり、時々ブログでも記事にしていますが、新型コロナの感染拡大とかワクチン接種状況等については、門外漢でもありコメントしないようにしてきました。

ただ、今日はちょっと気になるニュースがタイで流れていたので取り上げてみます。

 

www.bangkokpost.com

 

タイ経済は観光業への依存度が相対的に高いため、新型コロナの世界的な拡大によって経済へのインパクトが大きい国の一つです。

そのため、2020年度のGDP成長率の落ち込みも小さくなかったのですが、回復も周辺他国に比べてやや遅くなることが見込まれています。

chimigaki.hatenablog.com

 

したがって、経済の回復の重要な鍵の一つとして、タイ政府は、ワクチン接種云々の議論と共に、いかに早く旅行者の受け入れを開始するかの検討がなされており、今年の4月には入国者の隔離期間を短くするとかの対策を取り始めていました。

残念ながら、そうした対策とは別次元で国内の感染状況が急速に悪化し、2021年5月からは首都バンコクがロックダウンに入り、隔離期間の短縮化措置も撤回。今なお感染拡大のペースに歯止めはかかっていないように見えます。

 

そのような状況下にあって、日本と同じく、ワクチン接種の拡大がやや遅いように見えていたタイですが、漸く大規模なワクチン接種プログラムが開始されようとしています。

もちろん、国民個々人は、安全面からも経済面からも、ワクチン接種の重要性は認識しているように見受けられますが、ここに来てワクチン接種に対する不安というかためらいが持ち上がっているというのがこの記事。

 

今年の1月に実施された世論調査では、83%の人々がワクチン接種を希望していたのに対して、直近5月に実施した世論調査では63%に下がっているとのこと。

この要因は明確になっていませんが、用意されているワクチンの一つにSinovacが入っていることが一因として挙げられています。

 

Sinovacは中国製の不活性化ワクチンです。

未だWHOでは審査中で承認はされていません(もう一つ、Sinopharmという不活性化ワクチンがありますが、こちらは最近WHOの承認を得ています)。

中国が積極的に押しているワクチンで、タイのお隣カンボジアではほぼSinovacに頼ったワクチン接種が進んでいますし、インドネシアでもSinovacを中心に急速にワクチン接種が進んでいます。

 

WHOで未だ承認されていないことが示すように、当初からSinovacは有効性に疑義が呈されていたという事実があります。

最近、ブラジルが公表した検証結果によれば、50%強の有効性が確認できたようですが(これがWHOの要求ラインの一つらしい)、先進国のワクチン接種で使われているファイザー社製だったり、Moderna社製のmRNAワクチンに比べると有効性は格段に低いことは間違いありません(日本もファイザー、Modernaですね)。

なぜ製造に時間がかかると言われる不活性化ワクチンで、中国だけが他のmRNAワクチンと同時期に製造・供給開始ができるのかと言われたりしていたことが、根強く残っているのであろうことも想像に難くありません。

 

そんなSinovacに依存したようなワクチン接種計画を立てる政府に対する不満も(もともとずっと反政府デモが続いている、という背景も無関係だとは思えませんが)、先の世論結果に影響を与えているようです。

 

こうした世論に反応したのかのような首相の発言を伝えている記事も、今回のブログ記事を書こうと思った要因なので、以下に紹介しておきます。

www.bangkokpost.com

この記事単体で読んだとき(同日ですが、こちらの記事の方が掲載は早かった)は、「へ~、そうなんだ」としか思わなかったのですが、世論調査を伝える記事と合わせて読むと、また別の感想を抱かせます。

簡単に検索してみたら、このタイ首相発言の記事以外に、SinovacがWHOで承認されそうという内容の記事は一件も見つからなかったんですよね。

で、首相自身は、他の政府高官も含めて、アストラゼネカ製を接種している。

 

これを読んで思い出したのは、今やSinovacに大きく頼っているカンボジア

ワクチン接種開始当初、中国「様」という発言や行動を繰り返す同国のフンセン首相をして、最初に入ってきた中国製ワクチンを理由をつけて回避し、アストラゼネカ製のワクチンを接種していた(ように見えた)ことがありました。

その後、カンボジアの国民の間で「中国製の効用を我々で試そうとしているのではないか」などという憶測があったやにも(なお、カンボジアでは、そんなことを表立って言うと風説の流布で逮捕もあり得ます)。

ちなみに、現時点において、カンボジアは国民十万人当たりのワクチン接種人数は東南アジア諸国で2位です(1位はシンガポール)。

 

今回のタイの世論調査も、国民感情的には同じことなんだと思います。

結局は選択肢もないし接種するんでしょうけど、首相が率先してSinovacを接種していれば違ったんじゃないかなぁと思ってしまいました。