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カンボジア: 不動産開発業者に、住宅購入者の支払い能力に対する「慈悲」を求める要請 ー海外ニュースー

隔離施設から脱走した外国人が引き起こしたCOVID-19のローカル感染(2月20日事案と呼ばれている)が発生して以来、矢継ぎ早にいろいろな対応が打たれているカンボジア

医療体制がもともと十分ではなく(既に指定病院は満床で、ホテルが隔離病院の代替として転用され始めている)、ワクチン接種にもまだ時間を要しそうなこともあって、とにかくローカル感染をゼロにまで持っていくんだという意思を感じます。

そういう意味では、日本とは目指すところが違うという背景もありますが、各種対応策が打たれる素早さは日本とは比べるべくもないほどです。

 

さて、COVID-19の感染抑制には繋がらないのですが、COVID-19が国民の生活に与える影響を考慮して取られた策の一つとして、個人的に興味深いものが出てきたのでご紹介がてら、つらつらと思うところなど書いてみます。

www.phnompenhpost.com

 

"leniency"という単語は知らなかったのですが、慈悲とかそんな意味みたいですね。

"borey"(複数形でboreys)は当地で不動産触っていれば常識的な用語で、戸建ての集合住宅のこと。記事中、borey gated-communityという言い方がされていますが、法文を杓子定規に読めばゲートなどで囲まれた戸建ての集合住宅、というのがBoreyの定義ですが、一般的にはもう少し広い意味で使われています。

 

興味を引いたのは、住宅を販売した開発業者に対して、お客さんが住宅購入代金の支払に困っても、支払遅延損害金をかけたりせず、できる限り協力しなさい、という内容。

強制ではない(not compulsory)ようですが、お国柄、また開発販売の許認可を出す担当省庁であるMinistry of Economic and Financeが要請主体の一つに入っていることからも、多くのデベロッパーが何らかの対応を行うのではないかと想定されます。

 

これは、日本とは住宅購入の際の支払方が大きく異なるという商慣習が関係しています。

日本なら、手付けを払って残りは引渡しの際に決済(銀行ローンの実行か、現金で払うか)という形が一般的ですが、カンボジアでは引渡し前にも、契約以降は毎月分割で購入代金を支払うことが一般的です。

ここに特段の規制などが存在しないため、開発業者によっては代金の8割程度を引渡し前に受け取ってしまい、残りの2割だけが引渡し時決済という形をとったりしています。

 

開発業者は、いわばお客さんから多額の前途金を受け取ることで、開発資金を調達しているわけですが、今回の要請で、この仕組みがワークしなくなる可能性が生じます。

特に小規模の開発業者は厳しいかもしれません。

記事中でも触れられているとおり、お客さんが払ってくれないのなら工事代金が払えない、ということで工事自体が遅延したり止まってしまったりする開発が出てくるかもしれないですし、そうなると工事業者の従業員(出稼ぎの労働者が多い分野)の収入に影響が出てきます。

 

いくつかの業態では、感染拡大防止の観点から既に営業停止の措置が取られていたりしますが、感染拡大防止に繋がらないのに(工事現場でも感染が発生する可能性はありますが)、収入減に直面する可能性のある人たちが増えてしまうというのは、いかがなものかと。

なお、昨年から金融機関に対しては、中央銀行から同様の要請が出ていました。債務者がCOVID-19の影響による収入減を理由に弁済に困っているようなら、遅延利息は免除して、弁済スケジュールの見直しにも応じなさいと。

それでも住宅ローンの貸し出しが滞ったという話は聞いていないですし(事業者向けローンは審査が厳しくなったようですが)、金融機関での大規模なレイオフの話も聞こえてこないですね。金融機関は体力がある、ということなのか、意外と影響しないのか。。

金融機関とは違い、資本金の要求も小さく、体力のない開発業者に対するこの要請が、どういう影響をもたらすのかは注視しておきたいところです。

 

また、とうとう中央銀行が開発業者に対する要望を出す主体の一つに入ってきたか、という点も軽い驚きです。

中央銀行は、開発業者に対してなんら関係がないというのが建前なのですが、一方でカンボジアの開発業者は、商慣習としてデベロッパーローンと呼ばれる割賦販売方式を採用しています(金利は通常の住宅ローンより高いのが一般的ですが、与信審査がない。引渡し時に決済の必要がなく、経済的には住宅ローンと同じ効果)。

ここを、中央銀行は「シャドーバンキング」と捉えていて、かねてから購入者に対して警鐘を鳴らしていました(法的な監督権限がないので、開発業者には言ってこなかったのだろうと推察しています)。

そういう意味では一歩踏み込んできた感がありますので、この先(COVID-19が落ち着いた後)に、規制の動きが出てくる可能性もあるなと見ています。

インフォーマルセクターで働く人々(住宅ローンを借りられない人々)の住宅購入を支えてきた仕組みだけに、なくせないんじゃないかとも思いますが。

 

コンドミニアムのマーケットは、COVID-19で海外投資家(特に中国人投資家)が入ってこれなくなって大きく低迷していますが、戸建てのマーケットは底堅い印象がありました。

この要請を受けて、戸建ての開発業者からも「即金決済に限って大幅値引き」など、購入者視点では、一段と魅力のある提案が出てくるかもしれません。

なお、外国人が戸建てを購入するためには、トラスト会社を利用するなど、カンボジア人とは違う費用が必要となりますので、念のため。