知磨き倶楽部

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読み手を動かす書き手が気をつけている5つのポイント - 書評 - みんなが書き手になる時代のあたらしい文章入門

これまでにも何冊も「文章の書き方」というような本を読んできました。書店に足を運べば、類書は「ビジネス文書」に対象を絞っても、それこそどれを読もうか迷うほど並んでいますし、「小説の書き方」などジャンル違いの類書も少なくありません。

なぜそんなにも沢山の「文章の書き方」本が出版され続けているのかと言えば、それだけ需要があるからに他ならないわけですが、なぜ、そんなにも需要があるのでしょうか? なぜ、次から次へと(性懲りもなく)文章本に手を出してしまう僕のような読者がいるのでしょうか?

 

答えは「文章本を読んでもちっとも文章が上達した気にならないから」。

文章本に書かれている方法を愚直に実践しているわけでもないのに、別の本を読めば今度こそ文章が上達するに違いない、と思って次々に類書に手を出す、典型的な駄目パターンを辿っています...orz

 

仕事上で必要な文章ならまだしも、そもそも、なぜ僕は書かなくても誰も困らない文章なんて書いているのでしょう。

この記事だって誰に望まれたわけでもありません。それでも、それなりの時間を費やして、こうやって文章を書いてしまっています。そして、厄介なことにそんな文章こそ上達したいと思ってしまっていたりもするわけです。

 

今回は、そんな僕のような人の「決定版」となり得る本を紹介します。  

 

意識高い系の人であれば、「本を読んだらブログにアウトプットしよう」なんて標語のように唱えられていた頃を覚えているかもしれません。僕はそれが書評ブログなんて始めたきっかけですらあります。

とは言っても、当事から言われていたことではありますが、アウトプットすることそのものは目的ではありません。自分のためにアウトプットするだけなら自分しか見ないノートでもチラシの裏でも何でも好きなところに書けばよいわけです。

浅ましいことを言えば「ブログで本を紹介して紹介手数料を得られる」という副産物はあるにはあります。 しかし、そんなものはかけた時間と労力に(ほとんどの書評ブログは)見合わないレベルです。

文章を書く目的、それは「読者を動かすこと」である。自分の意見や、自分が有益だと思った情報を、文章にして伝えること。それによって他者のこころを動かし、考えを動かし、ひいては行動までも動かしてしまうこと。それが文章を書く、ほんとうの目的なのです。思いを伝えるだけではいけません。書くこととは、他者を動かさんとする「力の行使」なのです。

これは、著者である古賀史健氏が書かれていることですが、まさにその通り。

別にAmazonの手数料が目的で書評なんて書いているわけではないのです(いや、欲しいっちゃ欲しいんですが)。自分が読んで「お、これ面白い(役に立つ)。他の人にも勧めたい」という動機に基づいて書いているので、「読者を動かす」すなわち「俺も読んでみよう」「勧められている本を買おう」と実際に動いてもらうことが、少なくとも書評ブログにおける目的なのです。

 

では、そんな文章を書くためにはどうしたらよいのか。 「読者を動かす」文章を書くために気をつけたいポイントを5つだけ紹介します。

 

読者の反発を最小限にとどめ、最終的に読者のこころを動かすにはどうすればいいのでしょうか? もっとも簡単で、確実な方法は「論理的であること」です。

これは、僕の心を鷲づかみにした本書の肝です。

なんて簡潔で、説得力があって、かつ僕自身のパーソナリティにフィットする方法なんでしょう。

「論理的である」ために、まず気をつけるべき点は「接続詞」です。

 

文章(文の連なり)が論理性をもって展開していくとき、そこにはかならず接続詞が隠されています。省略されていることはあっても、隠されています。

そして前後の分が順接や逆説のどんな接続詞を持ってきてもつながらないとき、その文章は「曲がっちゃいけないところ」を曲がろうとしています。つまり迷子になりかけているし、支離滅裂になりかけています。

これ、あらためて自分の文章を見直してみると、意外と難しい。どうしたって接続詞が入らないと思われる箇所がちらほら出てきます。 

こういうところできちんと悩んで、一つ一つの文の繋がりを考え抜くことが大切なんですね。それが「読者を動かせる文章」とそうでない文章の違いを作り上げていく一つのポイントになるのなら、接続詞に気を遣って推敲する習慣をつけないといけません。

 

ぼくは、「起転承結」という構成をおすすめしたいと思います。具体的にどんなものが見ていきましょう。

起・・・いま全世界的に温室効果ガスの削減問題が議論されている

転・・・しかし、地球温暖化現象は本当に温室効果ガスによるものなのか?

承・・・(その疑問を抱いた理由、客観的事実など)

結・・・よって、温室効果ガス削減の議論はかなり根拠に乏しいものと考えられる

「起承転結」という文章作成上のフォーマットは誰しも習ったことがあるでしょう。

ただ、それはあくまでも小説や作文などのストーリー性を重視する文章でのお作法。こんな書評記事や、ましてビジネス文書で「大どんでん返しで読者の予想を裏切る結末」なんてものは誰も期待していません。それに、文才だって必要で大変そうです。

著者のお勧めする「起転承結」の形は、解説を読んでいくとなるほどと腹落ちします。「こう書けばいいのか」と完全に動かされてしまいます(笑)

解説は本書に直接当たって読んでいただきたいと思いますが、ポイントは「転」で自分の主張を入れるために「起」には自分の主張と真逆の一般論を持ってくる、という点でしょうか。

 

過去に読んだ文章本でも「出だしでの掴みに一番気を遣うべき」というようなことは書かれていましたし、実際導入部分というのは気を遣ってきました。 ただ、具体的にどうするのかを、ここまで分かりやすく提示してくれていた類書はなかなかないです。

もう、ここだけでも買って読む価値あると思います。

 

たとえどんなに立派な正論(英会話をやりなさい、資格を取りなさい、もっと本を読みなさい、など)であっても、それが自分にとって「他人事」であるうちは耳を貸そうとしないし、一方的な“説得”だとして反発する。これは人間のごく自然な態度です。

逆にいうと、ぼくたちは「これは他人事じゃない!」と感じたとき、ようやく耳を傾けるようになるのですし、自ら歩み寄っていきます。身を乗り出すか否かの境界線は、「当事者意識の有無」にかかっているといっても過言ではありません。

これも、書評ブログに限らず、ビジネス文書でも(実際の会話でも!)気をつけなければいけないポイントです。

特に相手にこちらの主張に賛同してもらおうと思いすぎると、正論をぶつけて説得調になってしまう罠に陥りがちです。 身に覚えがありすぎて、自分の失敗を思うと心が痛みますが(汗)、意識高い系に多い高学歴ビジネスパーソンも陥りやすいような印象があります。

じゃあ、どうすれば正論攻勢に陥らずに「これは他人事じゃない!」と感じてもらえる文章を書けるのでしょうか? そこは、是非本書を当たっていただければ。

 

文章とは「なにを書くか?」ではなく、「なにを書かないか?」を考えたほうがうまくいくものです。

「引き算で考える」。羽生義治永世七冠の言葉にもありましたが、まさか文章にも通ずるとは流石です。

今回の記事も「なにを書こうかな?」とつい考えてしまいましたが、そこを敢えて「なにを書かないでおこうかな?」と考え直してみることで道筋がつけられたような気がします。

逆にいえば、ここでは敢えて紹介しなかった重要なポイントが、まだまだ本書には書かれているということでもあります。 この文章が目的に照らしてうまくいったのかどうかは読者の方々の判断に委ねるよりありませんが、少しばかりいつもと違う文章が書けたのではないかと思っています。

 

いかがでしょうか。 「目から鱗!」のような斬新で革新的なアイデアに溢れているというわけでは決してないのですが、本書は「文章本難民」から脱する一冊になり得る本だと思っていますので、僕と同じ文章本難民の方々、どうせ色々読むのなら、この本も試してみてください。 後悔はしないと思いますよ。

 

 

■ 編集後記

こういう文章本のご紹介って本当に難しい。。 そこで指摘された駄目な例をそのまま踏襲しちゃってたら全く説得力ないですよね。

うまくもない文章で自分の型に拘るわけではないですが、やはり染み付いた癖というのは油断するとすぐに顔を出します。 文才があれば、それも「味」になるのでしょうが、ないから困っているわけでもあり。

 

今回ご紹介した本は実践的な文章本なので、愚直に実践し続けていけば成果が出る類のものですが、最近、全く実践的ではない、それこそ文才がないとどうしようもないじゃんというジャンルの文章本も読みました。 

ミステリーを書く気なんてさらさらないですけど(書ける文才もないですけど)、読むのは大好きなので、普段読んでいる作家の方々がどんな風にお書きになられているのかを垣間見られて楽しい読み物でした。