経営者としてのリーダーシップの心得- 書評 - カルロス・ゴーンの経営論
30代の半ばだった頃、いわゆる「ビジネス書」と言われる書籍を読み漁っていた時期がありました。 当時は書評ブログというジャンルもブームとなり、自分の糧にすべく読んでいたのか書評を書くために読んでいたのか分からない時期でもありました。
民間企業に勤める一般社員という立場だった当時から、その立場こそ変わっていないとはいえ、40代となって役職としては一応海外現法の社長を任されるようになったのですが、自分の糧にするための「ビジネス書」を読むことはめっきり減りました。 一通り読み漁った反動でもありますが、本当に必要とする書籍に絞って読めるようになってきたとも言えるでしょう。
今回ご紹介する本は、まがりなりにも「経営」を任される立場となった僕をタイトルから鷲づかみにした一冊です。 自分の至らなさを思い知ると共に、いかにあるべきかを考えさせられる本でした。
カルロス・ゴーン氏(以下「ゴーン氏」)と言えば、ビジネスパーソンなら誰もがその名前を知っている日産自動車のCEO。 来日当時は「コストカッター」としての異名が先行し、グローバリズムの波が押し寄せる中で、日産自動車の方々のみならず、日本中のビジネスパーソンが、今後自分たちの会社にも影響が出るかもしれない、その経営手法に戦々恐々としつつも注目しました。
本書は、そんなゴーン氏が教壇に立ち、大手・中堅企業の幹部候補生向けに開催された「逆風下の変革リーダーシップ養成講座」を書籍化したものということです。僕は、大手・中堅企業に勤めているわけではないのですが、年齢層的にはきっと対象読者なのでしょう(幹部候補生かどうかは分かりませんが)。
ゴーン氏のリーダーシップのスタイルを僕がそのまま真似ることなんてできないのは百も承知の上で、今日から気をつけるべき点を上げてみましょう。
「北はこっちだ。ここまで進もう」と言って、組織を推進しているなかで、時にその中断を迫られる場面もありえます。その時は、今起きている例外的な状況に対処しなければなりません。しかし、それははじめに言っていた「ここまで進もう」という計画を捨ててしまうことでは、決してありません。どうして中断が必要なのかをメンバーに説明する。そして、中断時の状況対処が終わったらすぐにまた従来の計画に戻って従来の目標を目指すようにする。これが必要なのです。
ゴーン氏も指摘していますが、計画通りにうまく運べている時には、リーダーシップを発揮する必要性はなく、こうした時にこそリーダーシップは問われるものです。 自分が説明される側の立場であった当時のことを思えば、リーダーとして、こうした対応が必要なことは自明なのですが、どこまで納得させられているのかということを、省みる必要がありそうです。
「高い実績がある」「逆風下に強い」「共感する能力がある」ーーこの3つは、後任のCEOを提案する時の絶対条件となります。
実績やら何やらは置いておくとして、共感する能力が絶対的に欠けているというのが、僕の自分に対する認識です。 こうやって絶対条件として突きつけられると心が痛い。。
ただし、僕は明確に自分の弱点を認識しているので、メンバーにもその点は宣言していて、共感ではなく、事実と数字、ロジックに基づいて物事を進めています。 僕の資質もさることながら、お互いが母国語で話していない中、腹の底から共感し合えるほどにコミュニケーションをとることが難しいという事情もありますが、そんな中でリーダーシップを発揮するためには、コミュニケーションの時間を増やさないといけませんね。
ゴーンというCEOの下でCOOを務めてきた私が、どのような役割を担ってきたかも述べさせていただきました。本書で紹介したのは、「現場の情報を得てゴーンに伝えること」「ゴーンの解説者となること」という補完的な役割と、「日本に関わる事業・オペレーションの指揮をとる」という付加価値的な役割でした。
これは、本書でも一章を割かれている、ゴーン氏の右腕として長らくCOOを務めてきた志賀氏の言葉です。 ここを読んだときに、「ああ、僕の果たしている役割はCEOとしてのゴーン氏の役割というよりも、COOとしての志賀氏の役割だ」と思いました。
僕が勤めているのはオーナー企業なので、最終的にはオーナーの意向は絶対です。 とはいえ、唯々諾々とオーナーの言っていることに従っているだけでは仕事になりませんし、そんなことも期待されていません。
オーナーの意向がこちらの意向と合うように、あるいはこちらの意向を汲んでもらえるように、時にはオーナーに意趣返しをさせるように、日々現場でのリーダーシップを発揮して指揮をとりつつ、「現場の情報をオーナーに的確に伝える」「オーナーの意向を現場に伝える」ということをやっているわけです。 色々な役割が未分化な中小オーナー企業ならでは、という立場なのかもしれません。
そんなことを考えますと、以前に読んだ突き刺さったこちらの本の一節が頭に浮かびます。
私は投資家であって、経営者ではない。投資家と経営者では、必要な能力や資質が全く違うと思っている。投資家は、リスクとリターンに応じて資金を出し、会社が機能しているかを外部から監視する。経営者は、投資家に対して事業計画を説明し、社内の人材や取引先などをマネジメントして最大限のリターンを出す。
これは、村上世彰氏が著書『生涯投資家』の中で述べられていることです。 僕は、経営者であって投資家ではありません。 オーナー(投資家)に対する僕の役割を認識し、ゴーン氏や志賀氏の言葉を咀嚼しないといけません。
上記のゴーン氏の指摘する事項は、僕の立場ではオーナーも僕に対して発揮するリーダーシップですが、現場責任者として僕は僕で発揮しなければならないわけです。
今回は取り上げていませんが、各章が終わるごとに、著者である経営学者2人による、ゴーン氏のスタイルについての、アカデミックな視点からの解説も付されています。 僕としてはやや冗長な感じを受けましたが、ゴーン氏のスタイルが理論的にも裏打ちされている様子を窺い知ることができます。
リーダーとしてビジネスを引っ張る立場にある、もしくはなりたいのであれば、読んでおく価値のある一冊だと思います。
■ 編集後記
最近は、日本語の書籍と英語の書籍とそれぞれを毎日読むようにしています。英語の書籍は、基本は子供が読むものを、子供と話をするために読んでいるだけですが。
でも、せっかくカルロス・ゴーン氏に関する本を読んだところですから、以下の本を英語勉強用に読んでみるのもいいかもしれません。
The Carlos Ghosn Story カルロス・ゴーン ラダーシリーズ
- 作者: ミゲール・リーヴァスミクー,カーミット・J・カーベル
- 出版社/メーカー: IBCパブリッシング
- 発売日: 2013/09/06
- メディア: Kindle版
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ラダーシリーズの中でもレベル4ということなので、何とか読めそうかなと。 ただ、子供と一緒の本を読む題材としては、カルロス・ゴーンは向かないだろうなあ。