知磨き倶楽部

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50年先も日本が日本であり続けるために - 書評 - 未来の年表

2017年も終わりに近づき、早いもので仕事の都合で日本を離れてほぼ6年が経とうとしています。

振り返れば、意外に月日の経つのが早かったという思いですが(新卒で入社した会社に勤めた期間とほぼ同じくらい経ったとは信じられない。。)、その間、日本の地を踏んだ回数も数えるほどですし、複数国に居住したりもすると、日本のことよりも目の前の国のことの方に重心が偏ってしまい、「少子高齢化」などの日本の問題に実感が伴わなくなってきています。

 

とはいえ、日本を捨てて出てきているわけではありませんし(もっとも、帰任の予定は今のところないのですが)、息子だって日本人ですし(そりゃそうだ)、両親も高齢世代の仲間入りを果たしています。

そこで今回は、日本の未来を考える一助として、こちらの本をご紹介いたします。

 

本書は人口動態統計を基にした分析から、かなり深刻な日本の未来を描き出します。

人口動態統計というものは、厚生労働省が集計し公表している、出産・死亡・死産・婚姻・離婚に関する統計調査です。

平成29年3月に公表された『平成29年 我が国の人口動態』のまえがきでは、

人口動態統計は、出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の実態を表すものとして、国、地方自治体の行政の資料としての利用はもとより、「生命表」や「将来推計人口」作成の基礎数値ともなり、我が国の社会、経済の発展に欠くことのできない情報となっております。特に、近年の出生率の低下にみられる少子化、死亡状況の改善による人口の高齢化など、国の将来にかかわる大きな問題を提起しております。

と説明されており、かなり正確に未来の人口推移を見通せる基礎資料と位置づけられています。

 

上記にもあるとおり、確かに、人口動態統計は「国の将来にかかわる大きな問題を提起」していますが、提起しているだけなのです。

特に最近のことではなく、「少子高齢化」に纏わる問題はずっと言われ続けています。代表的なのが年金やら社会保障制度の問題ですね。また、田舎の方では「過疎化」の問題も取り沙汰されています。

ところが、残念ながら、年金やら社会保証制度やらが、将来の日本を見越して作り替えられたりしてはいません。それはもう、絶望的に期待できません。一体どうなるのでしょうか?

 

ここに本書の目次の一部を抜き出してみます。 これこそが、このまま現状を放置したらどうなるのかを示す「未来の年表」に他なりません。

 

2017年 「おばあちゃん大国」に変化

2018年 国立大学が倒産の危機へ

2019年 IT技術者が不足し始め、技術大国の地位揺らぐ

2020年 女性の2人に1人が50歳以上に

2021年 介護離職が大量発生する

2022年 「ひとり暮らし社会」が本格化する

2023年 企業の人件費がピークを迎え、経営を苦しめる

2024年 3人に1人が65歳以上の「超・高齢者大国」へ

2025年 ついに東京都も人口減少へ

2026年 認知症患者が700万人規模へ

2027年 輸血用血液が不足する

2030年 百貨店も銀行も老人ホームも地方から消える

2033年 全国の住宅の3戸に1戸が空き家になる

2035年 「未婚大国」が誕生する

2039年 深刻な火葬場不足に陥る

2040年 自治体の半数が消滅の危機に

2042年 高齢者人口が約4,000万人とピークに

2045年 東京都民の3人に1人が高齢者に

2050年 世界的な食料争奪戦に巻き込まれる

2065年~ 外国人が無人の国土を占拠する

 

「2020年 東京オリンピック」とか言って浮かれている場合ではありません。あと、たったの50年、戦後から今までよりも短い時間で、日本という国そのものが、外圧ではなく内部消滅してしまう危険にさらされていると言うのに、学園認可の問題などが国のトップニュースになってしまっているようでは、あまりに平和ボケし過ぎています。

※ 海外でも日本のテレビをインターネット経由で視聴できるのですが、あれには毎朝呆れていました。。

 

著者は、厳しい状況を認識することが大切だということで、継承として上記の年表を提示しているものと僕は理解しています。本書にはこう書かれています。

日本の喫緊の課題を改めて整理するなら4点に分けられる。1つは、言うまでもなく出生数の減少だ。2つ目は高齢者の激増。3つ目は勤労世代(20~64歳)の激減に伴う社会の支えての不足。そして4つ目は、これらが互いに絡み合って起こる人口減少である。まず認識すべきは、社会のあらゆる場面に影響をもたらす、これら4つの真の姿だ。 

全く同感です。

ところで、一口に「少子高齢化」と言ってしまうことが多いですが、上記の著者の指摘では明確に分けられていることにお気づきでしょうか?

土台の認識で誤解していると間違った方向にしか進めないので、著者も強調しています。

少子化対策が功を奏して出生数が劇的に増えたとしても、高齢者の絶対数が減るわけではない。そして、高齢者が多いから「子供が生まれにくい国」になったわけでもない。高齢者数が増える「高齢化」と、子供の数が激減することを表す「少子化」とは、全く種類の異なる問題なのである。

はい、ここテストに出るところです(笑)

個人的には、「高齢者」の数もいずれは減少に転じるので、「少子化」対策こそ長期的にはより重要なのではないかと。

 

問題のうちの一つである「労働力不足」に対する対応策として検討に上がりやすいし、現実に机上に上がっているものとしては「外国人(移民)労働者」「AI」「女性」「高齢者」の4つの選択肢です。

対応するポイントとしては、(他の問題に比べれば)割と即効性もありますし、次代への移行までの時間つなぎとしては、ある程度の効果も見込めそうです。

しかし、著者は長期的に見てこれらの対応策が問題解決にとって決定的な切り札にはなり得ないと指摘します。 ※ 指摘の内容は本書をお読みいただければと。

 

もちろん、駄目だ駄目だと批判だけしていても仕方ありません。 著者の最大の目的は、本書で著者の考える処方箋を示すことにあります。

大きく言えば「戦略的に縮む」ということなのですが、具体的な内容については、これも本書に直接あたっていただければと。

僕は、同じことを思っていた内容もいくつか含まれていましたし、考えもしなかったけれど、なるほど面白いな、と思う提言もありました。

 

他でも指摘されることの増えてきたことですが、多くの日本人は過去の栄光にしがみつきすぎです。

海外に出てみると、確かに日本はリスペクトされていますが、プレゼンスと影響力は日本人が思っているほどではありません。

外国人労働者の問題一つにしても、いずれ日本は働きに行きたい国ランキングの中で相対的に低下していくはずなんです。

 

現状を認識し、50年先も豊かに続いている日本であるために、読んでおいて損はない一冊だと思います。

 

 

■ 編集後記

2016年に発刊になった以下の本も似た時期に(遅)読みました。 

50年先に国がなくなるかも、という暗い未来を提示している本が2017年のベスト経済書に選ばれる一方で(セールスも良かったはず)、「人生100年時代」の人生戦略を説く本書もベストセラー。 確かに、国はなくとも人は生きますが、上記の年表と照らし合わせると、アメリカのケースを想定して描かれた100年時代よりも、もう少し厳しく人生戦略を考えないといけないかもしれませんね。

 

また、本書の後に、妻が買っていたこんな本も読みました。 

七十歳死亡法案、可決 (幻冬舎文庫)

七十歳死亡法案、可決 (幻冬舎文庫)

 

こちらは小説ですが、「未来の年表」どおりに進んでしまうと、あながち突拍子もないアイデアではないかもしれないと、薄ら寒く思えてしまいます。こんなことになったら100年時代なんて永久に来ないわけですが(汗)、そしたら日本人やめるお金持ちがたくさん出そうです。

途中、結構暗い面もありますが、最後は小説らしく暗いままでは終わらせないところはエンタメとして楽しめますし、「高齢化」に纏わる身近な問題など色々と考えることも出来て、こちらも一読の価値ありです。